* * * my better half * * *
鶏子
よくある事だけど、企画がポシャった。費用がかかり過ぎて、採算が取れないという。
スポンサーを探そうと思ったけど、お父様にリスクが大きすぎると言われ、
結局そこでストップとなった。
ほんとうによくある事ではあるんだけど、ちょっといつもと違うのは、
半年以上この件にかかりきりだったって言うことだけ・・・
する事がなくなったんで、彼と久しぶりにのんびり話そうか。
友だちの話、最近読んだ面白い本の話、テレビのバラエティ番組の話、犬が転んだ話・・・
くだらない事、おかしかった事、私、一方的に喋る,喋る。
止まらない。止めてはいけない。
黙って静かに笑いながら聞いていた彼が、ゆっくり近づいてきて、そっと私を抱き寄せる。
「無理するな。悔しかったんだろう。泣きたいときは、ちゃんと泣け」
あ・・・ 平気だったはずなのに、なんでかな・・・ 涙が流れてきた。
半年も積み重ねてきた事が否定されるのは、かなりきつい事だろう。
「それでその犬ね、びっくりして、腰抜かしちゃって。もう可笑しくて,可笑しくて・・・」
彼女は、さっきから、笑いながら勢いよく話してる。
悲しいときほど、よく笑う。全く素直じゃない。
あれ? 俺、何やってんだ? なんでこんな意地っ張りを抱きしめてるだろう・・・
彼の瞳を見たら、泣いてる私がいる。こんな挫折ぐらいで、だらしない。
瞳の中の私が近づいてくる。
情けないのと恥ずかしいのとで、もう目を開けていられない。
私たちは、キスをする。
俺を見上げる彼女の、ちいさく開いた唇が震えている。
涙が入りそうだ。でも、ハンカチ持っていない。
彼女は、ゆっくり目を閉じる。
俺たちは、キスをする。
あれから彼は、ふたりきりになると、唇を合わせる。
時には優しく、時には激しく・・・
彼の手が、私の肩からなぞる様に下り、私の胸を包んだ。
「・・・ごめん・・・」
そういって、彼は体を離して、背中を向ける。
私の乳房に、深くしるしが刻まれた。
私たちは、変わってゆく。
彼女の唇が、俺を誘う。薄いピンクから、濡れたバラ色に移ろいながら・・・
たまらなくなり、俺は引き寄せられる。
胸元の汗が、甘く香る。触れたら、壊れるだろうか・・・
柔らかな感触が手のひらに伝わる。
驚いて頬を赤く染めた彼女を見て、あわてて顔をそむける。
「・・・うん・・・」
後ろから俺を抱きしめ、彼女は俺を許す。
俺たちは、走り出す。
薄曇の休日、彼が私に言う。
「今日、つき合って欲しい」
力強い光を瞳にたたえ、私を誘う。
私のなかで何かが騒ぎ出し、戸惑いあわてる。
伏し目がちではあるが、確かに頷く彼女。
俺の言葉だけにか、それとも俺の奥深くの意味に頷いたのか。
俺自身、どうしようとしているのかわからない。
俺のなかの激しい嵐は、やまない。
今は使われていない彼の家の前で、彼は車を止める。
エンジンの振動が止まり、私の鼓動だけが動いている。
体の動けない私を彼が抱き上げ、予感を確信に変える。
私たちは、愛し合う。
腕の中に納まる彼女。こんなに小さかったのか。
涙を浮かべて震える彼女。こんなに弱かったのか。
そんな彼女に、俺は酷い事をしようとしている。
俺たちに、ちいさな迷いが生まれる。
彼の指が優しく触れる。消えたくなる。
彼女の香りがする。いとおしい。
彼の目の色が深く燃える。暖かい。
彼女の吐息が耳をくすぐる。真っ白になる。
彼が何か囁く。ただ頷く。
彼女が全てを許す。もう迷わない。
彼が私を壊していく。生まれ変わる。
彼女が俺を包み込む。なぜか懐かしい。
彼が大きく動く。何かが走る。
彼女が逃げる。これ以上なく抱き締める。
彼が私の名を呼ぶ。光に包まれる。
彼女がゆっくりとうねる。呑み込まれていく。
今、互いの命の輝きを抱きあう。
そして、自分の半身を見つけた。
forever・・・
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