○○○ ふたり〜甲児&さやか〜 ○○○


月乃

 

それは激しい戦いのさなかだった。Zとダイアナンはそれぞれ数体の機械獣に羽交い締めにされ、動きを失っていた。甲児とさやかは互いに声を掛け合い戦意を高めようとするが、Zとダイアナンが叩きのめされる度にダメージを受け、声は小さくなっていく。
ダイアナンを押さえていた機械獣が巨大な鎌でダイアナンを切断した。そしてビームを発射!
ダイアナンも切り取られながらも胸のミサイルとスカーレットビームで応戦し一体を倒したのだが…。
爆風とともに操縦席が陰も形もなかったのだ!!
甲児はさやかを呼び続けた。だが風の音にかき消された。
やがて、Zは機械獣を全滅させた。甲児は傷ついた体を庇うこともせずにパイルダーでさやかの飛ばされた方向を探索した。
だがそこは青木が原樹海の中だったのだ。

「どこにいるんだ?さやかさん…早く見つけださなくては」
必死にさやかを探す甲児…
だが夕闇がすぐそこまで迫っている。夜になればまだ早春の樹海の中は真冬並みの寒さが襲うだろう…。
さやかも無事でいるかわからなくなる。
甲児は弓教授の一端帰還せよという命令を無視し、樹海を低空で飛び続けるのだった。

ふと、木々の中に何か赤いものが見えたような気がした。比較的開いた場所にパイルダーを着地させて近寄ってみると…。
少しへこんだようになっている場所にさやかが倒れていた。
「さやかさん!!  大丈夫か?」
彼の呼びかけにさやかは反応しない…。体はすっかり冷えきっている…。
甲児はさやかを抱き上げ、非常時に積んである毛布にくるませて乗せ、パイルダーを発進させた。

さやかを抱いて研究所へ戻った甲児は医務室で眠る彼女から離れようとしなかった。弓教授はすぐに医者を呼んだ。
「頭や腕の傷は軽傷です。ただかなり体が衰弱しています。それと頭を打っているかもしれない…」
意識の戻らないさやかの前で甲児は自分を責め続けた。
「くそっ!! 俺がついていながら…。ごめんな、さやかさん」
そっとさやかの手を握った。
それから…どのくらいの時間が流れたのか…。
甲児はさやかに付き添いながら眠ってしまっていた。
「ん…」
手に伝わる暖かさに気づき起きた彼は心配そうに見つめているさやかに気づいた。
「風邪をひくわよ…甲児くん」
青い顔をしながらそれでも笑おうとするさやか。
「なんともないか?」
心配で聞き返す。
「頭がひどく痛いの…ねえ…私どうしたのかしら?出撃したのは覚えてるんだけど」
頭を打って記憶が混乱しているらしい。
「ダイアナンで気を失ったんだよ」
甲児はあえて詳しくは語らなかった。
「それより休まないとな、さやかさん」
見つめる甲児にさやかもジッと見つめ返す。
「甲児くん…」
さやかが弱々しい声で呼ぶ。
「何だい?」
手を握りながら甲児は答える。
「お願い…そばにいて…怖い…ものすごく怖いの」
彼女のすがりつくような眼差しからは恐怖の色が濃く出ていた。いつも勝ち気な彼女が今はふるえて泣き出していた。
「大丈夫だ! 俺がついてるから」
甲児はさやかに近づいて肩を抱きよせ、そっとキスをした。ガタガタと彼女は震えている…。
夜が更けるにつれて寒さを感じた甲児は、
「俺、毛布とってくる」
とさやかから離れようとしたが、彼女は手を離そうとしなかった。
「お願いだから朝までずっと一緒にいたい…」
甲児はその言葉に我を失いそうになる
さやかは自分の寝ているベッドの毛布をそっとずらした…。
「お願い…」
彼女は不安げに泣いたままだ。
こんな状況で理性を失いかけた甲児はしばし頭を巡らせた。
「さやかさん…でもさ…」
赤くなり彼はどもる。
さやかはやっと上半身を起こすと甲児に抱きついた。
「もう戦いたくない…怖いの…甲児くんが…傷つくことが。明日はもう…」
生きていないかもと続く言葉を甲児は唇でふさいだ。
「なにも考えなくていいぜ…俺はずっとそばにいるからな」
「甲児くん」
彼はベッドに入りさやかをしっかりと抱きしめた。さやかは彼にしがみつき泣き続けた。暖かい互いのぬくもりは限りない優しさに満ちて、二人は自然に唇を合わせ、肌を合わせた。互いの性を初めて知った優しく暖かい初めての夜だった…。
二人は安らかな、それでいていつもとは違う夜に身をゆだねた…。
戦士たちのやっと訪れた二人だけの安らぎのひとときだった…。

二人はまだ知らない…最後の戦いが刻一刻と迫りつつあることを。そしてこの青い夜霧に包まれた彼方に神から約束された平安の時があることを…。
優しさに満ちあふれた夜に深い眠りに落ちていく二人だった。

 

 

 



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