機械獣 (2)

〜 by SAKURA 〜

「さやかさん。
あいつは人間じゃなかったよ。
いや、元は人間だったのかもしれないけど・・・
それとも、よく出来たロボットだったのかもしれない・・・・
とにかく、あいつは、人間じゃなかった」
「でも、甲児くん。あの人は血を流して・・・赤い・・赤い血だったわ」
「そう、赤い血だ。血管もあった。心臓もあった。
だけど・・・全て、作り物だったんだ。
弓博士にも、どうしようも出来ないくらい精巧な作り物だったんだ・・・。」
「そんなこと関係ないわっ。
関係ないのよ。作り物でも、本物でも・・・
あの人は・・・あの人は、私たちのことが好きだって・・・言って・・・赤い血を流しながら・・・死んでいったの
私が、もっと早く・・・ここに連れてきていたら・・・」
「さやかさん、お前のせいじゃないよ。
さやかさんがいくら早くに連れて来てたって・・・誰にもどうしようも出来なかったんだ。
オレたちには、彼の体に触ることなど出来ないんだ・・・誰にも・・・」
「・・・さやかさん、泣くなよ・・・そんな風に泣かれると、こっちの胸が痛くなる」
「あの人は・・・敵じゃなかったかも・・・って言ったわ
・・・もう・・・こんなのいやよ」
「さやかさん。間違ちゃいけない。アイツは俺たちの敵だったんだ。
アイツが、機械獣で街を襲ったんだ。」
「そうよ。
でも・・・もう、わからないの。もう、こんなのは、イヤ・・・」
「オレだって・・・わからないよっ。
でも、また機械獣が襲ってきたら、オレはZで出撃する。
さやかさんだって、そうだろう?」
「私は・・・もう・・・」
「嘘だっ。
さやかさんは、出て行くよ。誰よりも早く飛び出して行く。
保証してもいいよ。オレには分るんだ」
「甲児くんっ」
「・・・さやかさん」
さやかは甲児にしがみついて、泣いた。
どうしようもなく、やりきれないものを感じて、どうしようもなくって、さやかは、泣いた。
ただ、甲児にしがみついて泣き続けた。
甲児も、震えるさやかの肩を抱きしめながら、やりきれないものを感じていた。
同時に、甲児はどうしようもない憤りも感じていた。
怒り・・・誰に対してなのかはわからない。
ただ、さやかの涙が甲児を怒らせていた。
"こんな戦いは、もう終わりにしてやる。
オレが、終わらせてやる"
さやかを抱きしめながら、甲児は思っていた。


「Dr.ヘルの息子が死にました」
「Dr.ヘルの息子?」
「ええ・・・サイボーグでしたけど・・・」
「サイボーグ・・・」
「ええ。血管も、臓器も、柔らかい肌も持っている、ロボットです。
あまりにも精巧すぎて、私には彼を助けることが出来ませんでした。
・・・Dr.ヘルのあの才能を、平和利用することが出来たら・・・」
「・・・ ・・・」
「彼は、Dr.ヘルの息子は、機械獣を操縦していました」
「機械獣?
Dr.ヘルは息子を機械獣にしていたのですか?」
「いえ、さやかの話では、彼が自分でDr.ヘルに頼んだそうです。
Dr.ヘルを助けたいと思っていたと・・・。
彼は、いつも沢山の機械獣を引き連れてきて、いつも無傷で帰っていった。
なのに、なぜか、今回は一人きりでやってきて・・・。
Dr.ヘルも、まさかこんな事になるとは思っていなかったのでしょう。
われわれは、彼をDr.ヘルの元にかえすつもりです」
「なぜ、Dr.ヘルは息子を機械獣に・・・」
「・・・ ・・・ さやかが、彼と話しました。
だいぶショックを受けている様で・・・。
兜博士、私は彼らが・・・
さやかと甲児くんと、そして死んでいったDr.ヘルの息子がなんだか可哀想で・・・
兜博士、本当に、これでいいのでしょうか?
Dr.ヘルの息子は、甲児くんやさやかのことを、敵じゃなかったかも知れないと言って、死んでいったそうです。
さやかは苦しんでいます。甲児くんもです。
兜博士!本当にこれでよいのでしょうか!?」
「弓博士。あなたらしくもない。
いい筈がありません。でも、これが彼らの現実なのです。
彼らが戦って行かなければ、彼らの未来はないのです。
それが、彼らの現実だとしたら、私たちに出来ることは、一日も早く、この戦いが終わるように努力することではないのですか?あなたにも、よくわかってらっしゃるはずでしょう」
「わかってます・・・兜博士、それでも私は、実際の戦いの中では、時々、たまらなく辛くなるのです。
甲児くんもさやかも、実際よくやってます。彼らは、この現実に立ち向かうだけの力も、強さも、持っています。でも、私は、何のためらいもなく現実に立ち向かっている彼らを・・・無邪気な強さで立ち向かっていく彼らを見ていると・・・。
兜博士。甲児くんもさやかも、実際は、まだほんの子供なんですよ」
「弓博士・・・お気持ちは良く分ります。
私も、そちらに戻って戦いに参加していけば、同じ痛みを感じることでしょう。
今、こちらで訓練している鉄也くんとジュンも、さやかさんや甲児と同じ悩みを・・苦しみを、持つでしょう。
でも、私たちがいくら辛くても、これが彼らの現実なのです。
甲児とさやかさんは、その現実にたくましく立ち向かっているじゃないですか。
そして、こちらでは、鉄也くんとジュンが、その現実に立ち向かうべく、苦しい訓練に耐えているのです。
彼らが、どんなに苦しくとも、それが彼らの現実なのです。
私たちは、そんな彼らを見守ってやろうではありませんか」
「兜博士」
「もう少ししたら、私たちがそちらに戻ります。
たしかに、甲児とさやかさんは、この一年、よく頑張ってきました。
少し休養も必要でしょう・・・。
どうです?実は、前から考えていたのですが、あの二人をアメリカにやってみませんか?」
「アメリカ?」
「若い二人には、外国での生活も貴重な経験だと思いますよ。」
「アメリカ・・・
し、しかし!それでは、せっかく、あなたが戻ってこられても、甲児くんたちと一緒に暮らせないではないですか」
「弓博士。そんなことは、この戦いが終わってからでいいのです。
戦いが終わって、未来が開ければ、親子で暮らすことなど・・・いくらでも出来るのですから。
いくらでも・・・永遠に・・・です。
戦いが終われば、淋しい思いをさせた甲児やシローに、辛い思いをさてしまったさやかさんに・・・
そして、苦しい訓練に耐えた鉄也くんとジュンに・・・喜びも、楽しみも味あわせてやれるのです。
平和の日々をみんなで分かち合えるのです。
いくらでも・・・永遠に・・・です。
私だって、あなたに劣らずの親バカなのですよ・・・実はね。
もう少しです。
弓博士・・・もう少し・・・もう少しですよ――――」



―― Fin ――


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