鶏子
突然、手紙なんて驚いたろ。書いてる俺も驚いている。
多分、こんなの書くの最初で最後になるから、心して読めよ。
2月のフランスは、かなり寒いんだろう? ま、相変わらず元気そうだが・・・
今日、差し入れ届いた。宇門博士は、いいワインだと、しきりに褒めていた。
俺はそういうの、よくわかんないけど、確かにうまかった。
女性陣は、チョコレートに夢中になっていた。
みんなから、お礼を言ってくれと頼まれ、電話しようと思ったんだが、
アレも言え、コレも言えと、外野がうるさいので、面倒になり、
その結果、余計面倒な、こういうものを書く羽目になった。
まずは、ごちそ〜さん。
弓先生からも聞いていると思うが、いよいよベガとの最終決戦の日が近づいた。
コズモスペシャルもあとは調整だけで、週末には、打ち上げられそうだ。
協力、提案、その他モロモロ、多謝!
無事戻れた暁には、改めて、礼はするから、よ〜く考えておくように・・・
それと、今更だけど、ごめん。
半年の研修の筈が、こんなに長く、しかも、また戦うことになっちまって・・・
それを今頃、こんなふうに謝って・・・
最初の頃は、凄く怒ってたろ。
いつもなら、怒鳴り込んでくるのに、何にも言ってこなかったもんな。
すぐ首を突っ込むのは俺の悪い癖だが、どうにも止められない。
光子力研究所での日々は、本当に、キツかったよな。
さやかも、痛い思い、いっぱいしたよな。
でもな、あの辛かった日々があるから、今日まで戦ってこれた。
ここで逃げたら、あの苦しい時が無駄になると思った。
だから、絶対にここでがんばろうと思った。
そんでもって、がんばれたと思う。
今回も厳しい戦いが続いたが、気持ちの上ではラクだった。
さやかがそばにいなかったから。勘違いすんなよ。
以前みたいに、俺の目の前で傷ついてほしくなかった。
俺をかばって倒れられた日には、どうしていいかわかんなくて、
思えば、余裕無かったよ、あの頃の俺。
今は、俺より先に怪我されることは、まずありえないからな。
それに俺たちが倒れたら、次に危険なのは、さやかたちだって知っていた。
光子力研究所でも、いろいろ準備をしてるって噂が聞こえてた。
だから、絶対に負ける訳にはいかなかった。
以前の俺は、この世のあらゆる人々を救いたいと思っていた。
そばにいるみんなも、そうでない人たちも・・・ もちろん、さやかも。
俺ひとりの命で代えられるのならば、それもかまわないと信じていた。
でも、今は少し違っている。
俺、死ぬのは絶対にイヤだ。
さやかの命が無事なだけじゃ、だめなんだ。
二人がそろっていなければ、何の意味も無い。
俺が守りたいのは、さやかとの未来なんだ。
そのためなら、どんなにかすかな希望でも諦めない。
さやかに会えた事、すごく感謝している。
俺が強くなれるのは、さやかがいてくれるからだ。
無理はするかもしれないが、無茶はしない。
約束する。
必ず無事に帰ってくる。
安心してほしい。
すべてが終わったら、会いに行く。
話したいことが山ほどある。
甲児
さやかは、手紙を読み終え、封筒に戻した。
机の上のモニターには、コズモスペシャルの打ち上げの様子が映し出されていた。
見送るさやかの顔には、ゆるぎない自信と晴れやかな笑顔が溢れていた。
――― いってらっしゃい。
今度の約束だけは絶対に守ってね。
そうしたら、今までの分、帳消しにしてあげる・・・
end