LOVELY TASTE

鶏子

 

すったもんだの挙句、なぜか晩御飯を作ってあげる事になっちゃった。
「できるもんなら、やってみろ〜」
そういわれたら、やるしかないじゃない? 確かに、今までマトモなものは・・・
いいえ、今度こそ! だって甲児くん、私の事、全く女性扱いしてくれない。他の女性所員には、軽口叩いてへらへらするくせに、私に対しては、まるでワンパク坊主をからかって遊んでるみたい。女の子達のオモチャになっているヤツに、なんでこの私がオモチャ扱い受けなきゃいけないのよ!
ここはひとつ、目を見張るばかりの料理作って、参りましたと言わせて見せる!!


とは言っても、カレーだけどね・・・ しかも、インスタントルゥ使っての・・・
以前、カレー粉を使って、何十種類ものスパイス入れて作ってみたんだけど、途中から、カレーの匂いではないものになっちゃって・・・ 本格派は諦めた。その代わり、ジュンにいい事おそわった。お水一滴も使わないで、野菜ジュースで煮込むんだって。そうすると、コクが出て、手軽に本格的なカレーができるんだって♪ 早速、それで行ってみよう!!


お肉や野菜は、だいたい調理場に揃っているから、それをこっそり失敬する。
カレールゥは・・・あ!あるある・・・ あるけど、何種類もある。どれがおいしいんだろう? 誰かに聞く訳にはいかないし・・・ ま、カレーが簡単にできれば何でもいいや。
うるさい甲児くん用に、トッピング2種。赤過ぎない福神漬けとラッキョウ。
食材をひと通り揃え終わった時、ふと思い出した。そうだ!!


研究所の正門のあたりに花壇がある。すべての戦闘が終わった後、シロー君が荒れた庭にひまわりの種を蒔いたのが始まり。平和が訪れた象徴のようで、すごく嬉しかった。シロー君が花壇から卒業しても、他の女性所員が世話をして、きれいな花が何種類か咲くようになり、経理からも"園芸部費"がでるようになった。季節ごとに色とりどりの花が、私達の目を楽しませてくれていた。
ある日、ジュンが自分で育てたブラックベリーの苗木を、園芸部にプレゼントと言って持ってきてくれた。
花も可愛いし、実もおいしいからって・・・ ジュンらしい優しい気配りに感心しながら、その隣でただボーっとしてた鉄也さんをからかった。
「で、鉄也さんは? 何にもおみやげ無いの?」
そう言うと、ちょっと困った顔をして考えていたけど、そのうちにスタスタと所内に入っていっちゃった。しばらくして出てきた時、手にしていたのが・・・
「花も咲くし、実も食える」
確かにね・・・ でも、ここは園芸部・・・ 言う前に、自分で埋めちゃった。ジャガイモ・・・


あの時から、おかしくなっていったのよね・・・ 
他のみんなも、スイカの種だの、余ったニンジンだの、好きなように埋めちゃって・・・
それまで花壇なんて、目もくれなかった甲児くんまでもが、クワ持ち出して、耕して・・・
とうとう、ミニサイズの田んぼが出来上がっちゃった。もう花壇の面影ナシ・・・ 園芸部員の乙女達も、今ではすっかり農家のお嫁さん・・・
ま、いいか。こうして掘りたてのジャガイモでカレーが作れるのも、鉄也さんのおかげ。


材料を持って、甲児くんの部屋のキッチンへ。早速、片っ端から切りはじめよう。
前に泣かされたタマネギ対策も万全。ゴーグル&マスクで楽勝。
お肉を炒めるときイタズラ心が疼くが、フランベは警備から私にだけ禁止令が出たので止めておく。
余計なものは入れずに野菜ジュースでコトコト煮込む。なんか、いい感じ・・・
料理中は火の側を離れない。作っているコト忘れて、何度かナベ焼いているし・・・
カレールゥを割り入れる。板チョコ状態を完全に溶かさなきゃ、また味がかたよる。
ぐるぐるぐるぐる、お玉でよくかき混ぜる。焦がさないように、おいしくなるように・・・
だんだんカレーの香りがしてきて、なんだか嬉しくなってきた。
甲児くんが、料理って楽しいぞ、って言うの、わかった気がする。
ひと口食べたら、なんて言うかな?
おいしいって、言ってくれるかな?
どんな顔して、食べるのかな?
おかわりしてくれるかな?

 
そんなこと考えているうちに、出来上がり。う〜ん、いい香りぃ〜♪
ちょっと味見と思ったら、元気よくドアが開いた。
「お! できたの? ちゃんとカレーの匂いがするじゃん! 前の時はなぜかイオウの・・・」
ちょっと余計なコト思い出さないでよ! さっさと座る!
急いで盛り付け、部屋の小さなテーブルに置く。さあどうぞ、召し上がれ・・・
「よおしっ! いただきます!」
大きな口開けて、パクリとひと口。ね、ね、どう? おいしい? 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マズイ・・・」
私の両手がテーブルの端を逆手に掴み、そのまま力いっぱいバンザイしてしまった。


原因は・・・ カレールゥだった。確かにカレーではあるんだけど、パッケージを見たら、
『はじめてのカレーのお姫様』・・・ よく見るとその下には"8ヶ月から安心"・・・
この春、新設されたばかりの託児室用。はじめて作るの『はじめて』ではなかったのね・・・
決してマズイんじゃないのよ! ちょっと味が無いだけ・・・
カレーだらけになった部屋に私は誓う。近日、この雪辱、必ずや!!


闘いは、永遠に・・・

 

終わり

 

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