STUBBORN BULUES

鶏子



何でクリスマスには、みんな浮かれているんだろう
何で一年の終りには、忙しいのに元気そうなんだろう
何で一年の初めには、誰もが幸せそうなんだろう
余計、淋しくなるだけなのに…


甲児くんと私は、相変わらず別々の研究所でお世話になっている
互いに努力しなければ、そうそう会うことは無い
へこんでる時は、あの容赦のない言葉が聞きたくなる
疲れている時は、あの憎ったらしい顔さえも懐かしく思う


だけどそんな時こそ、絶対自分からは電話をかけない、会いに行かない
自分でこの難関をくぐり抜けてから、軽いもんよと報告に行く
甲児くんは、会うたびになにかを掴んでいる
私だって負けてはいられない


仕事に行き詰まった時は、まだいい
友達とバカ騒ぎして、ウサを晴らす
突破口が見つかれば、そこから再び走り出す
見つからなければ、頭を切り替えて最初から組み立てる


一番応えるのは、今日のような日…
仕事は順調、先の先まで一分刻みで計画が出来上がっている
期日は厳守、スケジュールはギリギリで休めない
普段通りの月初め、なのになぜか空気が違う一月三日


すれ違う振袖の派手な色が目に痛い
街のざわめきがこめかみに響く
駅の階段が果てしなく長い
小さなバッグが鉛のように肩に食い込む


真っ暗な部屋に、ようやくたどり着く
ライトを点けて、そのまま座り込む
ベッドとシャワー、どっちになだれ込もうかなぁ…
つくづく自分が情けなくなる


留守電のランプが点滅してる…

『俺〜 明けまして〜 俺も冬休み無かった〜 じゃ、またな〜』


2日遅れの新年の挨拶が、マヌケな声でたったそれだけ? 
カラッポだった頭の中に、邪魔な何かが湧いてくる
早くこんな声、消去しちゃおう・・・
なのに、何故かもう一度再生ボタンを押している


PRPRPRPRPR・・・・・・

ドアホンのコールが胸を打ち、受話器を取る

「・・・腹減った。なんか食わせて・・・」


受話器を叩き切り、エントランスへ走る
アンタんちからここまで3時間、食事なんて何処でもとれるでしょうが!
何で素直に会いにきたって言わないのよ!
ガマンしてたのに、頑張っていたのに・・・全部ブチ壊してくれて!


息を切らせてホールに着くと、へたり込んでるヤツがいた
少し疲れた顔に、ヘタクソな作り笑いを浮かべている
ブン殴ってやる! 文句言って追い返してやる!
ターゲットに向かって突進する


どうして、殴れないんだろう?
・・・身体ごと包まれているから・・・
どうして、文句を言えないんだろう?
・・・唇が塞がれているから・・・


こんなところに座り込んで、私たち何やってるんだろう
まあ、いいか・・・ 新しい一年のスタートだし・・・  
先に音を上げたのはコイツ、勝負に勝ったのは私
それにこうしていると、ここもなかなか暖かい・・・


「・・・お、重い・・・なぁ、モチの食いすぎ?」

前言撤回、やっぱりブン殴る!

END

BACK