ズリルの罠、さやかを救え!(3)

上尾美奈

 

さやかはずっと熱心に研究を続けていた。
「宇門博士、グレンダイザーのエネルギーを研究させてもらいました。それで一寸気になるのですが…」
宇門とさやかはお互い数式を書きあっていたが、顔を見合せると、興奮したような様子で大介と甲児を呼んだ。
「甲児くんこれを見てくれたまえ。」
甲児はその数式を読むと同様に興奮したような顔で聞いた。
「もしかして、…これ…。」
「そうよ、反陽子は光量子を誘導することが出来るのよ。スペイザーは光量子で動くことになるわ。」
「そいつぁすごいぜ!!」
「それにグレンダイザーのエネルギー補給が容易になる。」
「おとうさん!!」
「うん、さやかさんのおかげだ。急ピッチでスペイザーの作成に取り掛かる。」
さやかは例の白衣姿で自ら、レンジやスパナを持ってスペイザーの点検をしていた。夜はずっとシュミレーションのプログラム作りをしていて、ほとんど、2人で話をしていない。甲児は不満になって、さやかにちょっかい出してみたりする。後ろから忍び込んで、さやかの髪をほどこうとした、その瞬間、さやかは手にしていたドライバーを甲児の喉に当てた。
「なにするのよっ!!あっ甲児くん」
「まったく、危ないやつだなあ…。」
「もう、後ろから忍び込んでこないでよ。シュミレーションはどう?!」
「あんなもの、にせものだろう?本物が出来れば訓練するさ。何ってたって、俺は天才兜甲児だぜ」
「ふ〜ん、じゃあやって見せて。」
「いいか、よく、見ていろよ。」
甲児はシュミレーションを操作して、グレンダイザーと合体しようとして失敗して派手に爆発した。
「ふううん…。」
「なんだよ、おまえやってみろよ。」
「いいわよ。」
さやか同じように合体しようとして、失敗する。
「へんねえ…。ちょっとプログラム見てみようっと。」
「おい」
「あ、ごめん、ここのタイミング間違えていたわ。」
さっと、プログラムを書替えるさやか。
「これで、いいわ。」
さやか、再び操作し、見事に合体する。
「じゃあ、やってみて」
「そう、プログラムが違うんだ。俺がそんなに失敗するはずが…。」
失敗する甲児。
「ふ〜ん、まっ、甲児くんは本番に強いからいいか。ところで、ここんところわからないんだけど。」
さやかは甲児に書類を見せた。
「おまえねえ、いくら、エネルギー工学者だからって、ロボット工学の基礎だぜい。」
甲児、さらさらと数式を書いた。
「よかったわ。」
「なにが」
「ロボット工学者としての勘まで狂ってたかと思ったわ。」
「その話なんだけどさ、…。俺、この戦いが終わったら光子力研究所に帰ろうと思っている。ロボットの遠隔操作における宇宙開発を夢見て、ここへ来たけどロボット工学の基礎も出来てないことがわかったからさ、きちんと勉強し直したいなんてさ…。」
それから、さやかは、ますますがんばり出した、徹夜に近い作業までやりだした。
「おい、一応、病み上がりなんだからさ、無理するなよ。」
「早く、仕上げて、戦いを有利にしたいのよ。」
「そんなにむきにならなくても、グレンダイザーはつよいぜ。それに……、完成したら光子力研究所に帰るんだろう。少し延びて…。」
「だって、早く戦いを終わらせて、甲児くんに光子力研究所に帰って欲しいもの。」
二人は微笑み合うとそれぞれの持ち場にもどった。甲児は、さやかに無理するなとは言わなくなり、さやかは無理しなくなった。
さやかは、ひかるが馬に乗っているのを見て、声をかけた。
「ねえ、ひかるさん、運動神経はいいわね。」
「え?いきなりどうしたんですか?」
「ちょっと、一緒に研究所に来て。」
さやかは半ば強引にひかるをシュミレーションの前に連れてきて、合体の操作をして見せた。
「ね、そんなにむづかしくないでしょ、やって見て。」
「えっ?」
「ひかるさん、あなた、大介さんが好きなんでしょ?少しでも、一緒にいたいでしょう?」
ひかるはほほを染めた。
「たぶん、もう1台か2台スペイザーを作ることになると思うわ。戦場でも大介さんの役にたつことが出来るわ。」
「さやかさん、あなたは?甲児くんと一緒に戦場に立たないの?」
さやかは、美しく微笑んだ。そして、遠くを見つめて答えた。
「私が戦場に立つときは、甲児くんがマジンガーZに乗ったときよ。」
そして、円盤獣ブンブンがせめて来た。それはWスイペザーの誕生でもあった。
戦いに勝ったのを見るとさやかは静かに宇門博士の方に振り返った。
「Wスペイザーは成功のようです。ここに水中用と地底用のスペイザーの設計図を書いてみました。まだ、改良の余地はあるとは思うのですが。私はこれで一旦光子力研究所に帰ります。」
「そうですか。実はお願いしたい件があります。いつか、我々も宇宙空間で戦わなくてはならない時が来るでしょう。そのための研究をお願いしたいのです。これがグレンダイザーの資料です。しかし、どうやって、光子力研究所に帰るつもりですか。また、襲われないとも限らない。」
「ボスに迎えに来てもらうつもりですわ。」
「それはいい。彼らは一度ここに来ていて、ヴェガの方も勘違いしているし。」
「もう、そろそろ着く頃ですわ。」
「そんなにすぐに帰らなくても…。」
「宇門博士、私も科学者の端くれですわ。しなくてはいけない研究はすぐにでもしたのです。」
「そうですか。」
そして、さやかは外へ出た。遠くから、ボスボロットの足音がかすかに聞こえる。
「ボスーーーッ、こっちよ!!」
そこへ、甲児が帰還した。
「もう、行ってしまうのかい。」
「そうよ、次の研究が待っているもの。」
甲児はそっとさやかの肩を抱いた。
「元気で…。」
「甲児くんも。あのね、いちにのさんで別れたら、絶対に振りかえらないでね。」
「イザナミの尊の伝説か…。」
「じゃあね。」
甲児は背中でボスボロットの足音を聞いていた。

 

  「ヴェガ星連合軍の基地は…、月の裏側のセンターに…。」
ルビーナはそう言い残して死んだ。あれから、数ヶ月が過ぎていた。
「甲児くーん!!」
「ヘーイ、カブト!!」
さやかとともに背の高い、青い瞳の青年が宇宙科学研究所にやって来た。
「さやかさん!トニー?!いったい、どうしたんだ?」
「いよいよ、決戦でしょう?あれから、この日のために研究を続けていたのよ。トニーもNASAから光子力研究所に出向して来て、一緒に。」
「えっ、何の研究だい?」
「コスモ・スペイザーよ。NASAと光子力研究所の協同で密かに進めていたの。」
さやかとトニーは宇門博士とともにプランについて話を初めた。
「おい、あれNASAのDr.トニー・フレミングじゃないか」
「へー、林さん、トニーを知っているのですか?」
「そりゃ、有名じゃないか。」
そのとき、さやかの少し大き目の声が観測室に響いた。
「だから、トニー、それじゃだめっていっているでしょう?」
それを聞いた林は甲児に目配せをした。
「もっと、すごいのがさやかさん、弓博士か・・・。」
そして、コズモ・スペシャルが完成し、総攻撃の時がやってきた。
「操縦は各スペイザーと同じにしてあるから。ここで待っているからね。」
「じゃあ、行ってくるぜ!!」
そして、勝利を収めるグレンダイザーチーム。
観測室のさやかは呟いた。
「これで、甲児くんが帰ってくるわ…。

 

別れの日、甲児は朝から姿が見えなかった。
「きっと、さよならを言いたくなかったのよ。」
マリアはそう言って、兄とともにグレンダイザーに乗った。
そして、グレンダイザーが富士山が見える位置に来たところ、一つのロボットが上昇してきた。
「あれが甲児くんのマジンガーZか。そのために…。」
マジンガーZは翼を左右に揺らした。グレンダイザーもそれに答えた。そして、2台のロボットはしばらく並んで飛んだあと、グレンダイザーは上昇し、マジンガーZは下降していった。そして、空には2本の飛行機雲が夕映えに並んでいた。

FIN

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