水着の季節

 

「さやかさん、まだ?」
 シローが海の家でかき氷を買って、一同が佇んでいる更衣室前へ戻ってきた。
 季節は夏。ここのところしばらくDr.へルの攻撃もないということで、息抜きのために海へ遊びに来た、甲児、さやか、シロー、ボス、ヌケ、ムチャのいつものメンバーである。
 男性軍はぱぱっと脱いでぱぱっと着て、早々に海岸へ出てきていたが、さやかはなかなか更衣室から出てこない。
「……どう…かな…??」
 結局、シローがかき氷を半分ほど食べたところで、さやかが恥ずかしそうに彼らの前へ姿を現した。
「去年の水着なんだけど…一度も着れなかったから…。ちょっと子供っぽいか…な…?」
 赤いチェックの水着は、さやかの年相応のもので、なかなか可愛い。
 こういう場合、素直に誉め言葉を吐けるのは、やはりこの二人であろう。
「さやかさん、可愛いーっっ!!」
「おう、さやか、サイコーだわよ」
 …当然、シローとボスである。ヌケとムチャもにっこり笑ってうんうんと頷いている。
 そして、甲児一人が何も言わないままとり残されてしまった。
 さやかは、なんの感想も言ってくれない甲児を、じーっと見つめている。
「…あ…あー…そのぉー……」
 そんな風に見られたって困ってしまう。
 そりゃあ甲児だって、ひとめ見て可愛いと思った。さやかが更衣室から出てくるなり、あたりの男たちの視線が集まったことにも気づいている。客観的に考えれば、さやかがそれなりに美人であり、ひとめをひく容姿をしていることもわかっているのだ。他の男どもの羨望の視線を受けながら、さやかと一緒に歩くのは、はっきり言ってちょっとばかり得意だったりもする。
 しかし。
 甲児はそんなに素直な性格をしていなかった。
「あー…っとぉー。可愛いよ、うん」
「…そ、そう…??」
 珍しくあっさりと誉めてくれた甲児に、ガラにもなく少し赤くなったさやかだったが、次の一言で眉根を寄せる。
「…ほーんと、可愛い、その水着
「……水着…ね…?」
 自分のことじゃないとはいえ、水着だけでも誉めてくれるというのは、甲児の反応としては上等な方かもしれない。さすがにさやかも、甲児にそれ以上を求めてはいなかった。
 が。
「その水着さー」
「なに?」
「こないださやかさんの見てた雑誌に、『小胸をカバーする水着』って紹介されてたのと同じ形だよな。ほーんと、そーゆー意味でもさやかさんにぴ〜ったり………」

 ばっちーん★★★

 浜辺に大きなビンタの音が響き、そこいらにいた人々は、びっくりして音のした方を見る。
 そこにいたのは、さやかの強力ビンタで吹っ飛ばされた甲児一人だった。
 とっくに雲行きを察したシロー以下の4人は避難していたし、さやかは足取りも荒荒しく、海へ突進していっている。
「あーあー、アニキもどーしてあーゆーコト言うかねー」
 遠くから心配そうに見ていたシローが、砂浜に顔を埋めたまま動かない兄を見て、呆れたように呟いた。

 

おしまい

 

兜さやかさんからのリクエストは「赤い水着」でした。
もうちょっと大人っぽくした方が良かったかも…。 (Mio)

 

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