Uが終わったそのあとで epilogue

 K 

  

 以前はそんな風に思ったこともなかった。

 さやかはいつも甲児の隣にいるもので、それが当然だと思っていた。もしもお互いが結婚したとしても、さやかとの付き合いはそのまま続いて変わらないとまで思っていた。今考えれば本当にバカな話だ。

 

 

 さやかと初めて会ったのは、甲児が両親を亡くして祖父の元に引き取られ、財団の後継者教育を受けている最中のことだった。
 祖父が誇らしげにマジンガーZを披露してくれたあの日、Zとともにそこにいたのがさやかだった。それからずっと、さやかは甲児と行動を共にしている。

 最初甲児はさやかからZの扱い方を教えてもらう立場だった。あるいは後継者教育へのアドバイスや、高校の勉強を教えてもらったり。さやかは甲児と同い年にもかかわらず既に大学を卒業しているというだけでなく、幅広い知識を持っていた。あの頭の中には何が詰まっているんだろうと不思議に思うほどに。

 初対面からしばらくの間さやかはいつも不機嫌そうだったが、そんなさやかの態度にも甲児がひるむことはなかった。
 何故なら甲児にとって、さやかの好感度が最初から高かったからだ。

 何しろさやかは笑わなかったのだ。マジンガーを使ってなにがやりたいかと祖父に問われた時、「正義の味方をやりたい」と大真面目に言った甲児の言葉を。ある程度の年齢になってからは、失笑を買うことの多かった甲児の夢を。

 その後はなんのかんのとやりあいながらもさやかの態度は軟化していき、いつの間にか打ち解けて、一緒に「正義の味方」をやるようになっていった。

 祖父の作り上げたマジンガーZは無敵だったし、そもそもさやか自身が強かった。ヘルと戦っていても、もし何かあったら自分がさやかを守ることができると甲児は思っていた。

 その状況が変わったのは、ベガとの戦いが始まってからだ。

 ベガ星の送り込んだ円盤獣にマジンガーZは敵わなかった。マジンガ―Zは敗北し、戦いの先頭にはグレンダイザーが立つこととなった。マジンガ―Zは破壊されたままに、新たなマジンガーを作ることとなる。

 だから。ダブルスペイザーにさやかが搭乗するのは合理的な判断だった。

 さやかにはダブルスペイザーを乗りこなすだけの能力があった。十分グレンダイザーのサポートができるだろう。今、甲児がダブルスペイザーに乗ったところで、新しいマジンガーか完成するまでの間だけのことだ。そこから搭乗者をさやかに変更したのでは、三機のスペイザーの連携は最初からやり直しになる。それなら最初からさやかが乗っておけばいい。当然の話だ。

 けれど、それを決めた会議の時。甲児は無性に反対したくなったのだ。マジンガーの完成はまだ先だ。甲児はその間地上にいてダブルスペイザーの戦いを地上で見ていなくてはならない。敵はヘルじゃない。マジンガーZすらかなわなかった相手だ。マジンガーのない甲児が助けに行けないところでさやかが戦うことを、甲児の頭は容認しているのに、心のどこかが受け入れられなかった。

 けれどさやかが。

「たまには甲児くんが地上で見てるといいわ、私の戦いっぷりを!」

 なんて言うから。さやかの目が「私を信用してないの!?」と言っていたから。反対したい気持ちをぐっと堪えて「頑張れよ」と言ったけれども。あのときのもやもやした気持ちは長い間甲児について回った。

 多分あれが最初に抱いた違和感だった。

 さやかならちゃんとやれる。わかっている。わかっているのにどうしてだろう。さやかを戦いの場から引き離したいと思うのは。
 こんなことを考えるなんてさやかに失礼だ。口にしたらさやかはきっと怒るだろう。

 長い間ずっと一緒にやってきた。戦いも、災害復旧も、なんでも。甲児に足らないところはさやかがフォローしてくれた。さやかがやらかした時には甲児がサポートした。
 そうやって自分たちはずっと一緒にやっていくのだと思っていた。今日と同じ明日が続くこと、それがどんなに幸せなことなのかも気づかなかった。

 甲児が戦えない状態の時に、もしさやかの乗るダブルスペイザーがベガにやられたら? マジンガーZのようにボロボロにされたら? もしもさやかの身に何かあったら?
 その不安感はXが完成してからも消えていかなかった。戦闘中、さやかが危険にさらされたとき、もしも甲児の手がさやかに届かなかったら?

 さやかがダブルスペイザーに搭乗するのを反対したかったわけ。被弾したダブルスペイザーを見た時の心臓を掴まれたような恐怖。それが一体どこからくる気持ちなのか。

 戦いの続く中、甲児はある日、ぽんと気づいた。気がついたら笑えてきた。そりゃそうだと思った。他に答えなんてないだろう。
 わかったら落ち着いた。落ち着いたら不思議にそれまでのような不安に苛まれることはなくなった。だって甲児はさやかという人間を信用している。その力量だってちゃんとわかっていたはずだ。

 さやかは最初から、フリード星人のマリアやグレンダイザーの巫女だというヒカルと比べても遜色ない戦いっぷりをしていた。グレンダイザーとの連携は取れているし、Xとの連携に関しては大介達が驚くほど。阿吽の呼吸とでも言うのか、さやかは甲児のやりたいことを察して動いてくれるし、甲児もまたさやかが何を考えているのかがわかる。つまりは、Zで戦っていた時と同じだった。敵が強くなった分、こちらだって強くなっている。危険は常にあるけれど、二人一緒なら乗り越えていける。

 それでもまぁ、ダブルスペイザーがやられたときの慌てっぷりを、マリアにからかわれたりはしたわけだが。

 祖父は亡くなる前に、「あの子を大事にするんだぞ」と言った。「お前にないものを持ってる子だ」…と。あの時は祖父が何故そんなことを言うのかよくわからなかったが、今の甲児にははっきりとわかる。

 戦いが終わったら。そうしたらはっきりさせようと思った。フラグみたいでちょっと嫌だけれども、そんなものは踏み倒せばいい。

 そう思ってようやく今日、ここまで来たのだ。実際にフラグは蹴り飛ばしたし、デュークとマリアが地球を発った今、すべてが終わったと言っていいだろう。明日からはまた、二人で正義の味方活動をする日々に戻るのだ。

 だったらその前に、はっきりさせておきたい。今までとは変わるだろう二人の立場を。

「さやかさん」

 手を繋いで歩いていた甲児の足が止まる。

「なに?」

 一歩先に行こうとして、さやかもまた足を止めた。長い髪が風に揺れる。

 グレンダイザーが去った後も長い間青い空を見つめていたせいで、二人の周りには誰もいない。弓と宇門、所員たちが、グレンダイザーに積み込む荷物を運んできた車に分乗して戻っていくのが見える。ヒカルは少し前に実家に寄ると言って手を振って去っていった。
 ちらほらと草花の咲く広い草原に、今は甲児とさやか二人きりだ。

 ここで決めずにいつ決めようと言うのか。甲児は自らに気合を入れた。決意を固めてさやかの真正面に立つ。

「…さやかさん、あのさ……」

 吹き抜けていく風はどこか甘い香りがしていた。

  

  

END

  

  

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サイトの主旨通りの甲児×さやか締めてみました。本編最終話もこの二人で終わってはいるけれども。
Uの甲児くんは割と素直な性格なので、気持ち認めちゃったら早いよね…と。Zの二人だったらまだあと二転三転しそうだけれども。
この後、番外編が3本入って、今度こそ本当に終わりまーす!!