マジンカイザー 
-光輝たる魔神(かみ)- (1)

HARUMAKI

 



熾烈を極めたべガ星連合軍との死闘は、かろうじてグレンダイザーとスペイザーチームの勝利で幕を閉じた。
デュークフリードとマリアフリードは、かけがえのない戦友達に、フリード星と地球との変わらぬ友情を誓い、再会を期しつつ、母星の再興という新たな戦いへと旅立っていった。
頭上の敵を排した地球。
しかし。
戦いの傷から立ち直り始めた人類に、その足元から再び悪夢が甦りつつあることを知るものは、一部の人間を除いて、殆どいなかった…。



「予兆」





戦後にもかかわらず、光子力研究所の格納庫には、異様な活気に満ちていた。
まるで、臨戦体制である。
特にマジンガーZの周りは一段と喧噪すさまじい有様であった。
体の各所で、工作機械がまばゆい火花を散らし、クレーンで資材が吊り上げられていく。
まだ装甲が剥き出しの箇所も多いそんなZの足下では、手足からのびたコードに測定機器を接続してのチェックも同時に行われていた。白衣を着た一群が、流れてくるデータを一つ一つ確認していく。
「チーフ、ここの回路の件ですが…」
「ああ、そこは、…」
声をかけられた男が振り返り、研究員に答えた。
若い。
まだ、20を越えたかどうか、であろう。
収まりの悪い、癖のあるやや長髪に、野性的で、どこか少年の面影を残したマスク…。一般的にいえば2枚目ではあるんだけれど、単なる2枚目じゃない、不思議な魅力をたたえた青年であった。。
白衣は着ているが、なんとなくしっくりとしていない。
それもそのはずで、彼は研究者であると同時に、歴戦の勇者であった。
兜 甲児。
Dr.ヘルの日本侵略に始まり、ミケーネ帝国との死闘、そして、今回のべガ星連合軍。
この若者は、その全てを戦い抜いてきたのだ。
いま、彼は、宇宙科学研究所から光子力研究所に戻り、マジンガーZの改良プランと、それとは別に進行しているプロジェクトに携わっている。
マジンガーZ。
日本の誇る、鉄の城。
甲児の相棒と言えるこのスーパーロボットは、しかし、べガ星連合軍との戦いに参戦していなかった。
なぜか?
一言で言うと、『設計思想の違い』、で、ある。
Dr.ヘルの機械獣は、基本的には地表をフィールドとして設計されていた。その為、それらの迎撃用として設計されたマジンガーも、陸戦兵器の性格が強い。
対して。
べガ星連合軍の円盤獣は、恒星間戦争を念頭に置き、空間戦闘能に優れている。
自然、高高度戦闘が多くなり、大気圏外での戦闘も想定され、スクランダーで強化されたとはいえ、マジンガーでは、対抗しきれないという結果が、シミュレートされた。
もちろん、直ちに光子力研究所では、グレンダイザーから得られた新技術をマジンガーにフィードバックすることを開始した。
しかし、フレームからの根本的な見なおしが必要となり、不眠不休で作業は進められたのだが…
「結局、お前は間に合わなかったな…。」
甲児は、そうつぶやくと、聳え立つマジンガーの足にそっと触れた。
彼が、大介(=デューク)のサポートとして果たした役割について、その功績をとやかく言うものはいまい。
自身も、ひけらかしたりはしないものの、大介の手助けができた事を誇りに思っている。
それでも。やはり。
「お前と一緒に戦いたかったよ。」
偽らざる本音であろう。
あの激戦に、マジンガーがいてくれれば。
そんな感慨にふけっていると、
「か〜ぶと!サボってんじゃないわヨ!!」
と、後ろからどやされた。
「・・って〜なぁ!、なにすんだよ、ボス!」
不意をつかれ、まともに鼻でマジンガーの足にキスする羽目になった甲児は、怒気をはらませて振り返った。
「わりぃ、わりぃ。でーもよっ、お前さんの承認が必要なんだわサ、この書類に。」
豪快に笑いつつ、がっしりとした体格の男が書類を差し出した。
安全帽に、つなぎの作業着が妙に似合う。顔の造作も、大雑把で、四角い。
棒田 進。通称、ボス。
ガラクタから作り上げたボスボロットで、Dr.ヘルやミケーネと遣り合ったという、ある意味甲児以上の兵(つわもの)といえる。
一見粗野だが、内実は意外に繊細で、義理堅く、甲児の無二の親友である。
また、理論的なことは皆無だが、作業の腕は天下一品で、「ミクロの指先を持つ」、と技術者の間では評価が高い。現在は、その技術力を買われて、研究所開発部門に加わっている。
「また、書類か?いったい一日に何枚書類を書かなきゃならねえんだ?」
「仕方ないわサ!戦争終わって、予算削られぎみなんだから。」
甲児のぼやきに、ボスも苦笑で答える。
戦争の爪あとは深刻で、その復旧へと政府が力を注がざるを得ず、その結果、研究所の予算は戦時中より大幅に削減されていた。正直、台所事情はかなり厳しい。
では、なぜこのような緊張と喧騒に包まれた作業状況になっているのか?
ミケーネ、闇の帝王。
グレートの奮闘、そして、兜 剣造の尊い犠牲により、暗黒大将軍以下七大軍団は壊滅し、戦力の大半を失ったミケーネは地上より撤退した。
だが、元凶と言うべき闇の帝王は、現在も所在は不明である。そして、べガ星連合軍との戦闘で各国が疲弊しきった現状は、その野望の実現には絶好の好機と言わざるをえない。
当然、その危険性について政府に訴えていたが、高官たちの危機感は薄く、大方は、「戦力は瓦解しているのだから、当面の侵攻はありえない」、という見解であった。
「ったく、考えが甘いんだよなー、ミケーネの本当の戦力を把握しているわけじゃないってのに。…それに、マリアも予知能力で、『黒い炎に気をつけて』、って、言ってたんだぜ?」
「マリアって、あの大介ってやつの妹だろ?美人だったのか?」
とたんに二人の顔が、涎をたらさんばかりくずれて、鼻の下が伸びる。この二人、煩悩でも英雄クラスと言えよう。
「ああ、胸がボーン!で、腰はキュッ!として、尻は…」
…ホンとに、涎をたらすなよ、お前ら。一応、主人公なんだから。
それに、いいのか、甲児、危機が迫っているぞ。
ぎゅう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
「いって〜〜〜!!な、ナにしやが・・!ぁ・・さ、さやか!?」
抓られた尻をさすりながら振り向いた甲児の顔色が変わる。
「…全く、甲児もボスも、いくつになっても変わんないんだから。」
白衣の腰までかかる艶やかな栗色の髪を掻き揚げ、桜色の形の良い唇から深いため息を吐きながら、彼女は嘆いた。
弓 さやか。主張は慎ましやかだか、モデル並に均整の取れたプロポーションに、日本人形を思わせる整った美貌。そんな外見からは想像しにくいのだが、彼女も、やはりDr.ヘルやミケーネとの闘いを潜り抜けた歴戦の戦士である。
彼女は、Dr.ヘル戦後、甲児とともにNASAに留学し、父の後を継ぐべくエネルギー理論を学んできた。現在は、甲児をチーフとする、ダイザーから得られた光量子理論と光子力理論とを応用したプロジェクトに、サブチーフとして携わっている。
以前からすると、お転婆振りは影を潜めてきたが、気の強さは相変わらずのようで、甲児との口喧嘩は、研究所の風物詩となっている。裏返せば、それだけお互いの絆が深いのであるが。
「ぃ、いや、これは…、あ、な、なんか用があったんだろ、さやか?」
あたふたする甲児に、誤魔化しにも、なんにもなってないんだけど?、と心の中でもう一つため息をつきながら、さやかは、伝える内容の重大性に表情を改めた。
「ジュンさんから連絡よ。非常事態が起こったって。科学要塞研究所にすぐに来て欲しいんですって。」
途端に、甲児とボスに、緊張の色が走る。
「さやか、それって…」
「ええ、」
と、さやかは鉛を飲んだような重い口調でこたえた。
「ミケーネの可能性が高いそうよ。」

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