マジンカイザー 
-光輝たる魔神(かみ)- (2)

HARUMAKI

 

「再会」



ローターの巻き起こす風に翻るスーツの裾を押さえながら、彼女は唖然とした表情を浮かべていた。彼女のそんな顔を拝める機会など、めったにあるまい。
その、メリハリのはっきりとした褐色の爆裂ボディは、エキゾチックな美貌と相俟って、フェロモン全開と言った風情である。が。その実態は、鍛えぬかれたしなやかな肢体に、超人的な戦闘力を秘めた、美しき、危険な女豹。
炎 ジュン。
ミケーネ戦では、グレートの心強いパートナー、ビーナスAの操縦者として活躍した女性だ。
「お久しぶり、ジュンさん!」
ローターの止まった機体より、まず、さやかがジュンに歩み寄った。
「久しぶりね、さやか。ジュンでいいわよ。…それにしても、驚いたわね。ヘリポートで待っててくれとは聞いたけどね。」
苦笑しながら、さやかと握手を交わす、ジュン。その視線はまだ、さやかの肩越しにポートに駐機している機体に注がれていた。
「聞いたかよ、ボス。あのジュンさんをびっくりさせてやったぞ!」
「おお、兜!苦労した甲斐があるってもんよ。」
後ろで快哉をあげる、万年ガキ大将の二人。
そのさらに後方では、今、背中のボックスユニットに、可変ローターを収納し終えたボスボロットが、ヘリポートに悠然と佇んでいた。
なんと、苦節ン年、ついに、ボロットが翼を手に入れたのだ!!
実は、Zの強化プランを実行する際、大量の廃棄パーツが生じていた。それこそ、電子パーツから、果ては、旧型の光子力エンジンまで。
そのエンジンを、どうせ廃棄にするなら、と甲児はボスと諮って、こっそりとボロットに組み込んだのだ。もちろん弓教授からこってりと絞られたが、最後は教授も、「…ボロットであれば、許可しよう。」、と苦笑して許してくれた。
そう。ボロットは、光子力で動くスーパーロボットに生まれ変わっていた!
おまけに、超合金Zの廃材からボディも作り上げたため、今や、マジンガーの兄弟機と言っても過言ではない存在となった。…相変わらず、飛び道具は全くないが。
そんなわけで、出力に余裕ができたため、背中に可変式ローターユニットを取りつけられ、大気圏内ではあるが、飛べるようになったのだ。
さらに、気密構造となった操縦席の畳の上には、高級リクライニング座椅子もセットされ、エアコン完備で快適さも大幅アップになっている(システムキッチン付き)。仮眠室として利用している光子力研究所職員もいるほどで、所内での評価はなかなか高い。
ボスと甲児は、研究所の作業の合間にヌケ、ムチャの二人を交えてこれらのパワーアップを行ってきた。ちなみに、ヌケはプログラマー、ムチャはシステムエンジニアとして研究所に勤務していて、その勤勉さと意外な優秀さで重宝がられているようだ。
今回が、実はボロットの初フライトである。
「ふふふ…、相変わらずね、二人とも。」
柔らかく、ジュンが微笑む。
「あれ…、ジュン、なにか、嬉しそうよ。」
その表情に含まれたかすかな喜びの色に、さやかは敏感に反応した。
「ええ、こっちにもね、みんなを驚かす事があるの。」
そう言って、ジュンは後ろを振り返った。
その視線の先に佇む人影。
「!!って、鉄也さん……!」
記憶の中より、肉は削げ落ちていた。血色もまだ良くない。
だが。
その瞳に、以前と変わらぬ不屈の炎を湛えて。
戦士は帰ってきた。
剣 鉄也。雷鳴の勇者、グレートの分身。
彼は、ミケーネとの最後の決戦で、再起不能とまで言われた重傷を負った。
事実、ベガ星連合軍にグレートを奪われたときも、まだ意識は戻っていなかった。
奇跡的に意識が戻ったのは、最近である。それからは、医師も驚嘆するスピードで離床までこぎつけたのだ。
その、何事にも屈しない、誇り高き男が、
「鉄也さんっ…!?」
甲児に歩みより、頭を下げていた。
ジュンには、分かっていた。
彼は、これを乗り越えねばならないのだ、と。
「甲児君、すまん。俺は・・、俺は、君が嫉ましかった。所長が君に奪われてしまう、と嫉妬してしまったいたんだ!俺には、闘いしかなかった。所長に認めて貰うために、無謀な戦いをして、その結果、君から永遠に所長を奪ってしまった。俺は、君に償いきれない過ちを犯してしまったんだ。君からどのような責め苦を受けようと、俺は甘んじて受け入れるつもりだ…。」
この、孤高の戦士が、己の醜い弱さを認め、それを他人に曝している。如何ばかりの葛藤が、ここに至るまでにあったか。だが、これを乗り越えなければ、甲児と自分は先に進んでいけない。それに。もう、自分の弱さからは逃げない。過ちを繰り返さないためにも。
鉄也のその思いを。甲児は静かに受け止めていた。
自分でも不思議なくらい、冷静だった。
以前の自分であれば、激昂して殴り掛かっていたかもしれない。しかし、数々の闘いは、いろんな人の生き様を、そして死に様を見せてくれた。その中で、人の強さと、弱さを学んできた。まだ、完全ではないが、今の自分には、あの時、父、剣造が、何を考え、行動したか、が、分かる気が、した。
「顔を上げてくれ、鉄也さん。そりゃ、あの時は正直恨んだよ。でもさ、考えてみたんだ。あの時、俺が、父さんの立場だったら、どうしたかって。・・・きっと、同じ事していたって思うんだ。俺も。」
その言葉に、鉄也が弾かれたように顔を上げた。
「どうしてだ、甲児君!なぜ?」
「何故って?簡単だよ。血は繋がってないかもしれないけど、俺たちは、同じ父を持つ、兄弟なんだよ。」
…そう、答えた甲児の顔を、さやかは、一生忘れない、と、思う。あんな、切な過ぎるくらい透明な笑顔は―。
そこに言葉はなかったけれど。
二つの掌は、熱く、堅い絆で、交わされた。
ジュンは。
涙は流していたけれど。
久しぶりに、心から微笑むことが、できた。

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