機械獣 (1)

〜 by SAKURA 〜

"きゃぁーーーーーっ"
"さやかさぁーーん!!"
"甲児くん!甲児くん!!"
"大丈夫かい?さやかさん"
"甲児くん。死んじゃったの甲児くん!!"
"さやか!しっかりするんだ、さやか!!"

―――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――

「お父さま!Zはどうなの?」
「お嬢さん、いいんですか!?うごいて!?」
「苦戦してるよ。又あの機械獣なんだよ。」
「また、たくさんの機械獣を引き連れてきてるの?」
「いや、今度はあれ1つのようだが・・・しかし、油断はならん!」
「お父さま・・・ ・・・・。
もぅ、ボスは何してるのよ!!
私だって・・こんな体じゃなきゃっ・・・!!」
「へん!さやかさんなんか足手まといになるだけだね。」
「甲児くん!!
そんなこと言ってていいの!?戦闘中でしょ!?」
「こんなヤツなんて、かるい、かるい・・・
うっわぁっっ!!」
「甲児くん!!」
「甲児くん、大丈夫かね。甲児くん!!」
「だ、大丈夫です。先生。」
「お父さま。私、もう我慢できないわ!!
アフロダイAで出動します!」
「さやか。ムリだお前には・・・まして、その傷ついた体では・・・。」
「お父さま。止めたってムダよ!
アフロダイAだって、きっと役に立つわ!!」
「さやか!待ちなさい、さやか!!待つんだ!!」


「くっそぉーーっ!光子力ビィーーム!!」
「大丈夫かね。甲児くん。
今、さやかが、そちらに向かった。」
「何だって!?さやかさんが!?
さやかさん、来るんじゃない!こいつは君にかなう相手じゃないんだ!
さやかさん、聞いてるのか!?さやかさん!
う・・わっっ!!」
「甲児くん!!」
「来るなっ!来ちゃいけない!さやかさん。
こいつはオレと、4度に渡って戦っているんだ。
君にはムリだ!!」
「甲児くん!!だけど、私だって、アフロダイAだって、きっと役に立てるわ!!」
「う・うわぁぁぁぁっーーーーーーーーーーっ!!」
「甲児くん!?どうしたの!?死んじゃったの・・・甲児くん!!」

――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――

"来るな、さやかさん!止めるんだ!!おまえのかなう相手じゃない・・・!
さやか、くるなっ・・・
く、くそぉっ・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・ ・・・"
ふん、今の一撃でダウンか・・・
いや、もう一発っ
・・・動かないか・・
どうしたんだ。もう立てないのか!?
なら、とどめだっ!
"ガシャッ"
ん!?
「甲児くん!!」
じゃじゃ馬娘のご登場か・・・
まさか、ミサイル一つで戦うつもりなのか?
「おまえね!!機械獣!」
本気らしい・・・
「ミサイル発射っ!」
おっと・・・それっお返しだっ
「きゃぁっーーーーー」
「さやか!大丈夫か?さやか!?」
「大丈夫よっ。お父さま。なにさ、これくらいっ。」
いつもながら気の強い・・・
さて、立ち上がれるかな!?
「まだまだっ!負けるもんですか!」
・・・かわいい・・・
いつもいつも、俺とマジンガーの闘いの間をチョロチョロしてくれちゃって。
まぁ、どっちの役にも立ってないから、公平だけどさ・。
・・・うっ!
ちぇっ。ミサイルでも武器は武器か。
悪いが。次はとどめだ。
"くっそぉ・・ ・・・機械獣め・・・
・・・!? ・・・さやかさん! 
機械獣!!""
えっ!?・・・ ――― − ・・マ・・ジンガー・・か・・ ・・・ ・・・ 
「甲児くん!!やったわ!甲児くん!!・・・どうしたの?甲児くん
聞こえないの?甲児くん!!」

――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――

ガシャッ ガシャッ
「やっぱり。動かないわ。きっと、足をやられたのね。」
「甲児くん!甲児くん!聞こえないの!?」
さやか、ため息。
せっかく機械獣に勝ったというのに・・・。
甲児は倒れたままみたいだし、アフロダイの足もやられている。
これでは、Zを助け起こしに行くことだって出来やしない。
ふと目が機械獣の方へ向く。
「人だわ!!」
さやか叫ぶ。
倒れている機械獣のお腹の辺りに人が倒れていた。
「もぅ、なんで開かないのよっ!
開けってばっ!」
さやか、やっとの思いで操縦席から抜け出す。
近づいてみると、それは男の人。白い髪?
「血だわ。なんでこんな所に・・・。」
「まだ、生きてる?」
さやかは、ためらっていた。この人、動かして大丈夫なのかしら・・・
しばらくして男の目が開く。青い瞳。彫刻のように整った顔が、痛みに歪む。
「・・・きみは・・」
「あなた、動かないほうがいいわ。」
「もしかして、きみがあのロボットを操縦していたのか?」
さやか頷く。
「どうしてこんな所にいたの?
機械獣に閉じ込められていたの?」
男は機械獣の中から投げ出されたように、倒れていた。
「ふぅん。美人だな・・・。
イメージ通りだ。あの美人なロボットから、むさ苦しい男が出てこられたんじゃイメージが狂ってしまうからな。冥土の土産にもなりゃしない。」
絶えず彼の体からは血が流れていた。ドックドックドック・・・それは生きている証。
そして、もうすぐ生き絶える証になりつつある、血。
その鮮やかな血の色が、さやかの目にうつる。
「やっぱり、動かないほうがいいわ。」
さやかは、自分の腰に巻きつけてあるサッシュベルトをはずす。
「止血よ。」
黄色いサッシュベルトが、だんだんと赤に染められていく。
「どうして、こんな所にいたの?
あの機械獣の中に閉じ込められていたの?」
男、苦笑いする。
「いや。
あれは、オレが動かしてた。」
「えっ?」
「信じられないか?」
そう、信じられない・・・そんな、だって・・・どうして?
「だろうな。」
「どうして?」
男の整った顔が一瞬歪む。
「オレの傷はどんな具合だ?」
「大丈夫よ。今、研究所に連絡するわ。
すぐ手当てすれば、大丈夫よ。」
「冗談じゃない。」
「えっ?」
「敵に助けられるつもりは、ない。」
男はゆっくり一言一言吐き出すように、そう言う。
傷が痛いのかもしれない。
しかし、その目は、しっかりとさやかを見据えていた。
その迫力に、さやかは一瞬たじろぐ。
敵?
「何バカなこと言っているのよ。
このままほっといたら、死んじゃうのよ。」
「聞こえなかったのか。おれは敵だぜ。」さらに強くさやかを見据えて、男が言う。
「・・・敵じゃ、ないわ。あなたは人間よ。」だって、血が、赤い血が流れてる。
「どうしてあなたが機械獣の中にいたのか知らないけど、でも、あなたは人間だわ。」
さやかも男の目をみつめ、一言一言吐き出すように、しゃべる。
なぜか胸が詰まって、上手くしゃべれなかった。
敵かもしれない、と思う。でも、それを認めたくなかった。
何かしら激しい・・・どうしようもない憤りが胸の奥から湧き上がってくる。
涙が、溢れていた。
男の目に一瞬、弱々しい光が浮ぶ。
しかし、もう一度はっきりと言った。
「・・・敵だ。」
「ちがうわ!人間よっ!」
もう涙は止めようもなく、溢れ出ていた。
どこから来るかわからない憤りは、敵だと言い続ける男に向けてなのか、何に対してなのか、よくわからなかった。
「・・・困ったな。敵も味方もわからないとは・・・。」
「違うわ・・・敵も味方もないわ。人間よ。あなたも私も・・・
・・・研究所に連絡するわ。」
そう言って立ち上がろうとするさやかの腕を、男は強く掴む。
「止めろっ。」
その男の瞳と強い口調に、さやか、ビクッとする。
それを感じて、さやかを掴んでいる男の手が和らぐ。
「どっちにしても、もうすぐ死ぬ。
せめて最後まで側にいてくれ。」
流れ出る赤い血。空を見つめてる青い瞳。
さやかは、ただ、それを見つめていた。
さやかの腕を掴んだ男の手は、力が弱くはなっても離そうとはしなかった。
「どうして・・・機械獣の中にいたの?」
男の目が、一度さやかの方へ向けられ、そして又空を向く。
「さっきから言ってるだろ?オレがあれを動かしていた。あんたが考えてるように、閉じ込められてたわけでも、闘いに巻き込まれたわけでも、ない。
傷、痛いんだから、何度も同じことを言わせんなよ。」
「でもっ。
機械獣を人が動かすなんて聞いたことないわ。」
「あれは・・・オレが、Dr.ヘルに頼んで作って貰った。」
「頼んだ?あなたが・・・Dr.ヘルに・・・?」
さやか、更に訳がわからなくなってしまう。
「どうして・・・そんな・・・」
「ヘンなヤツ」
男がさやかの方を見て、少し笑う。
「どうしてって・・・あんた達を倒したかったからだよ」
さやかは男の言う事が、理解できなかった。
ドックドックドック。絶え間なく流れ出る血。
その血の色が、さやかの目に映って、頭に映って・・・ああ、早く、早く何とかしなきゃ。この人は死んでしまう・・・。
機械獣に追われて、逃げていく多くの人たち・・・もう嫌。人が死んでいくのは、もうイヤ・・・早く、早くなんとかしなきゃ・・・。
どうして、どうして私は・・・この人の腕が振り払えないんだろう・・・。
「・・・あんたの、あのロボットの名前は?」
「アフロダイAよ」
何の役にも立たないと思いながらも、さやかは傷口にハンカチをあてがってみる。
「ふうん・・・アフロダイ・Aか・・」
「痛い?」
「いや・・・さっきまで、しゃべるたびに痛んでたけど・・・
今は、喋っている方が、気が紛れていいみたい・・・だっ」
さやかの動かすハンカチが傷に触ったのか、男が大きな声を上げる。
「ご、ごめんなさい。痛かった?」
「いや・・・大丈夫・・・だ」
男、痛そうに顔を歪めながらも笑う。
さやかは、少しほっとした顔で、再びハンカチをこまめに動かす。
「あなたは、人間よ。機械獣じゃないわ」
「機械獣じゃないが・・・敵だ」
男の言葉に、さやかの手が止まる。
「あっちで倒れているロボットは?マジンガー・・・?」
「Zよ。マジンガーZ。」
「・・・ぜっと・・・」
苦しそうにつぶやいて・・・深く息をすう。
「あれも、あんたみたいな女の子が操縦してるのか?」
「ちがうわ。男の子よ。
兜甲児。あなた、何も知らないの?」
弱々しく笑って、男、目をとじる。
「血が流れていくのが、わかる。・・・気持ちいい。」
「何言ってるのっ!?しっかりしてっ!」
血が流れていく。サッシュベルトもハンカチも、もう血でぐっしょりぬれてしまっている。それでも、血は流れ続ける。
なんで私は、立って行って研究所に連絡しないのだろう・・・この手が・・・微かに私の腕を掴んでいる、この手が・・・どうして、振り払えないのだ。
「オレ・・・あんたのこと、好きだったな・・・」
男は閉じていた目を開ける。青い目に、青い空が映った。
「最初は、Dr.ヘルの手助けをしたいと思った。
早く、戦いを終わらせて・・・あの人の望みを叶えてあげられたら・・・と。
でも・・・機械獣に乗って・・・
あいつ、強いよな。そして、あんたがいつもチョロチョロと出てくるんだ。
好きだったな・・・オレは、あんたたちとは違うのに・・・」
「違わないっ!」
さやか叫ぶ。
涙がとめどなく流れて・・・流れて・・・
「泣いてるのか?」
男は、さやかの腕を掴んでいた手を離す。そして、その手が、すっと上がって・・・その指が、さやかの頬にそっと触れる。
「へんなやつ。おれは、あんたと戦ってたんだぜ。」
「敵じゃないわっ!」
「敵じゃないか・・・そうだな・・・おれたちは・・敵じゃなかったのかも・しれない・・な・・」
そう言って、青い目が、そっと閉じる。さやかの頬に伸びた手が、落ちていく。
「いっ・・・いやあぁぁぁ・・・・ぁ・ぁ―――・っ」
男の体から流れ出る血は、もう固まってきていて・・・それでも、まだ、絶え間なく流れ出る血。
赤い・・人の血・・・
「甲児くん!!甲児くん!甲児くん!甲児くん!!
甲児くん!たすけて!!
おねがい!!助けて!・・・たすけて・・・」
目をぎゅっとつむって、叫ぶ。声の限りに・・・叫ぶ。
涙は・・・とまらない。
「ねぇ、聞いて・・・おねがい、聞いて」
さやかは、男の頭を抱え上げて、呼びかける。
もう、動かしていいのか悪いのか、そんなことは分らなかった。
「聞いて。今、甲児くんが来てくれるわ。
絶対、絶対に、来てくれる。
そうしたら研究所に連絡して・・・あなたは、ちゃんと怪我の手当てをして・・・元気になるの・・・ぜったい・に・よ・・・
ねぇ・・・聞いて・・・ねぇ、おねがい・・・きいて・・」


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