SNOW,SNOW,SNOW! 1

written by yamayama


12月・・・
街はいっせいにクリスマスへとその姿を変える。
すべてのものが、金、銀、赤、そして緑色に埋め尽くされ、街路樹は光の樹と化していく。あふれんばかりの光の洪水の中、きらめくイルミネーションの前に時には足を止め、時には素通りしながら、人々は心踊るクリスマスへと近づいていく。
 そして、12月のある日、甲児たちもそんな行き交う人々の仲間入りをすべく、イルミネーションと喧騒の街へ繰り出してきたのだった。



「随分と買ったみたいだけど、まだ何か買うのかよ?」
「まだ予定の半分くらいしか買ってないんだけど??」
「ねー、甲児、今度はあそこの店につきあってよー。」
女性陣の返答に、さすがに甲児もお手上げ状態といったところなのだろう。
「まだ買うんだったら、俺、先に荷物、車につんでくるよ。で、1時間後にここで落ち合おうぜ。」
その手にはもちきれないほどの紙袋、紙袋・・・。
「これ以上買っても、もう荷物持てないぜ。自分達で持ってくれるんなら話は別だけど。」
その姿にいくらかは同情したのか、はたまた最後の脅し文句が効いたのか、意外とあっさりとその提案は一同に受け入れられそうだった。
ただし、口元を少しとがらせて抗議するマリアを除いてだったが。
「えー、そんなー、甲児、今日はいくらでも付き合ってくれるって言ってたじゃない!」
そんな仕草は彼女を一層幼く見せる。甘えるように駄々をこねる姿に、甲児はしばらく会っていない弟の姿を思い出し、苦笑を禁じえない。
それでも、1時間後に落ち会い、その後にお茶でもしよう、ということで甲児は買い物から解放された。
あわよくば何か買ってもらおうという魂胆から買い物に付いてきていたゴローは女性陣と一緒に買い物を続けることとなった。
「じゃ、甲児さん、また後でね。」
「甲児、約束の時間に遅れないでね。」
半分、怒ったような拗ねたようなマリアが、甲児に念をおす。



荷物を車に積み終ったあとも、約束の時間にはまだ余裕があった。今更人込みの中に戻る気にもなれず、甲児はふと目に付いた自販機で買い求めた缶コーヒーを片手に外に出てみる。知らず知らず屋内のなま暖かい空気に嫌気がさしていたのだろう、冷たい空気に触れると思わず安堵のため息がでてきた。


「大介さんは一緒にいかないの??どうしてもダメ、なの??」
名残惜しそうに何度も尋ねてくるひかるに
「ああ、残念だけど、今日はお父さんとの用事があるんだ。僕の分も皆で楽しんでくるといい。」
大介はにこやかに微笑みかけると、既に皆が乗り込み、出発を待つだけになっていた車に向かって手をふってみせた。
やはり、あれはこうなることが分かっていて逃げたんだよな・・・大介さんのヤロー・・。いつものように大介にしてやられた事を悔やんでも、もう、遅い・・・
とりあえずは女性陣が早く買い物に飽きてくれる事を待つだけだ。


数刻前の事を思い出しながら、そんなことを考えていた甲児にドスンという響きとともに衝撃が加わり一瞬身体が揺らいだ。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」柔らかい女性の声がする。
視線を声のほうに向けると、今、甲児にぶつかった女性がペコッと頭を下げ、心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「いや、何でもないよ、これくらい。そっちこそ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。ほんとうにすみませんでした。」
もう一度頭を下げて歩き出した女性の傍らにずっと一-緒にいたのであろう、若い男性も甲児に軽く会釈をしてから、女性と並んで歩き出した。直後、その彼が、人込みから庇うように彼女の肩を無造作に自分へと抱き寄せる姿が目に入る。
「だってーー、ツリーがあんなに綺麗なんだもの。つい見とれちゃうじゃない」
言い訳をしながら、女性も嬉しそうに男性にもたれ、二人はじゃれるように去っていった。


ツリー??ふと、上を見上げた甲児の目の前には、クリスマスツリー・・・金色と銀色の光のベールをまとい赤いリボンと赤いリンゴでおおいつくされたツリーのその緑の葉の部分はほんの申し訳程度に覗いているだけ・・・。そして、それほどまでに華やかな装飾でも、クリスマスを祝福するにはまだ足りないとでもいうように、空からの白い雪が、更に綿帽子の飾りをツリーにほどこしていた。その光景に、街行く人々は皆一様に足を止め、その残像を目にとどめようとしていたのだった。


・・・色とりどりの光であふれかえる巨大なツリー
・・・行き交う人々。舞い散る白い雪
・・・そして、じゃれあう恋人達


そんな光景を以前にも自分は見たことがあった。
あれは、いつのことだっただろう。ほんの数年前・・・
場所は、そう、誰も知る人のいないニューヨーク・・・


いや、誰も知る人のないなんてウソだ。
俺の傍には、あの時も、そしていつだってあいつがいたのだから。


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