Uが終わったそのあとで(4)

 S&K 

  

「ねぇ、甲児くん。この戦いが終わったらどうするの?」

 何気ない口調でさやかが訊いた。

「ん? また正義の味方やろうかなって」

 甲児もまた何気ない口調で返す。

「今でも十分正義の味方でしょうが」
「あ、そういうのじゃなくて。前にやってたみたいなやつ。災害復旧とか人命救助とか?まぁ、ヘルの奴らとは戦うことになるだろうけど」
「ブレないわね」

 思い出すのは初めて甲児と会った日。なんのてらいもなく「正義の味方をやりたい」と言って真っすぐ自分を見つめてきた彼は、バカっぽくはあったがどこか輝いて見えたものだ。その時のさやかは、決してそのことを認めはしなかったけれども。

「だからさぁ。Zを修復しようかなって」
「あら、最近はXに夢中だったんじゃなかったの?」
「XとZは別だから。おじいちゃんの作ったZをあんな姿のままにはしておきたくない。俺はおじいちゃんのマジンガーで正義の味方をやりたいんだよ」

 実際、以前のような活動をしていくのなら、Xより小回りのきくZの方が使い勝手がいいと言えなくもない。使い分ければなおさら良いだろう。

 すっかり破壊されたZは、光子力研究所で眠っている。研究所が襲われた時も、動かないことが一目瞭然だったZはベガ星兵士に見向きもされず、格納庫が頑丈だったことも相まって無事だった。
 Xに転用できる部品は取られてしまったが、それでもまだZはZのまま光子力研究所にいる。

「だからさ、戦いが終わったらさやかさんも手伝ってくれよな、Zの修復」
「え?」
「だってさ、さやかさん、マジンガーを完成前から見てるんだろ? きらきらした目でマジンガー建造中のおじいちゃんにくっついて回って、時にはおじいちゃんの助手みたいなことまでしてたって、弓先生や博士たちから聞いてるよ」

 さやかの眉間に皺が寄る。甲児は時々無神経だ。知らないのだから仕方がないとわかってはいるが。

「………乗りたかったのよ」
「?」
「私がマジンガーに乗りたかったの! お母さんが亡くなって光子力研究所にお父さんと一緒に住むようになって。兜博士が作ってるマジンガーの完成モデルを見てプロトタイプの時からずっと見てきて」

 それは甲児にも話したことのないさやかの本音だった。

「Zはすごくかっこよくて。少しずつ出来上がって来る姿にわくわくして。兜博士にワガママ言って手伝わせてもらって。いつか私も乗るんだって思ってたのに」

 完成したマジンガーZを、さやかは操縦できなかったのだ。技術的には問題ない。なんなら修理も出来るぐらい内部構造にも詳しい。それでも、さやかには、長時間Zを乗りこなすだけの体力や筋力や持久力といったものがなかったのだ。情けないったらなかった。

「でも、私には操縦できなくて、能天気な顔したポッと出の孫に操縦者のポジションを取られちゃったときはどんなに悔しかったか!」

 能天気な顔をしたポッと出の孫は、一見なよなよして見えていたのにあっさりとZを乗りこなした。技術的には未熟で内部構造なんて知ったことではなくても、充分鍛えられていた彼はマジンガーを乗りこなすだけの力を持っていた。技術なんて後から身につくものだ。

「あー、それで最初当たりがキツかったわけね」
「そうよ」

 そんな彼に嫉妬して、さやかは最初、随分きつく当たったものだ。さやかの態度なんてまったく気にしていない甲児にかえって腹が立ったりもした。
 それでも、ブレない彼に引きずられるようにして行動を共にしているうちに、彼がどんな人間なのかを知ってしまって、きつくは当たれなくなった。それからは、彼の抜けている部分を補ってサポートして、一緒に戦って笑って怒って時々は泣いたりもして。いつしか心地よい関係を築いていた。さやかにとって、今や隣に甲児がいるのが当たり前にまでなり果てている。

「じゃあさ、作ればいいじゃん」
「え?」
「さやかさんが乗れるロボット!」

 甲児の声がいいことを思いついたとばかりに弾んでいる。

「Xが出来上がっていくのを見てて、俺も子どもの頃のさやかさんの気持ちがわかったんだよ。だからさ、俺、自分の手でZを直したい。もう一度Zを動かしたい。そして一からロボットを作ってみたいとも思った」

 こんな時の甲児がめっきり本気であることをさやかは知っている。言ったことは必ず実行することも。

「ベガとの戦いが終わったら一緒にZを修理して。それから一緒にさやかさんのロボットを作ろう。そして、俺はZ、さやかさんもさやかさんのロボットに乗って、二人でずっと正義の味方やってこうぜ」
「………私のロボット…」

 意外なことにそれは今まで思い浮かべたことのない発想だった。
 甲児のサポートをするための、より良いメカや武器の開発のことは常に頭にあった。しかし、自分のロボットを作ろうとは、今甲児に言われるまで、考えたこともなかったのだ。

 さやかの脳裏に楽しい想像が浮かんでいく。どんなロボットにしたらいいだろう。さやかが乗るのだから女性型にしてはどうか。マジンガーより柔らかなラインにして、全体的に少し細身にする。土木建築災害復旧方面に特化した機能をつけて、ある程度は戦えるように武器も搭載する。甲児と一緒に戦うために、時にはマジンガーZを守れるように。
 そして二人で正義の味方を続けていくのだ。

「悪くないわね」
「だろ?」

 さやかがにんまりと笑うと、甲児も笑顔を返してくる。

「じゃあ、いっちょベガの奴らをやっつけてくるか!」

 Wスペイザーの外装をチェックしていた甲児は、いつの間にかコクピットまで戻ってきていた。自らの血に濡れた手をガードスーツで拭ってからさやかに差し出す。さやかもまた遠慮も戸惑いもなくその手を握って立ち上がる。

 あちこちが傷むけれど動けないほどではない。
 前回の戦いでの傷が治っていない甲児の方が重傷だろう。出血しているところを見ると傷が開いてしまったのだろう。戦いが終わったら二人して医務室行きだなと内心ため息をついた。

「どう、ダブルスペイザーは動きそうか?」
「うん。70%ぐらいの出力ならいけそう」

 先程までチェックしていた計器類を横目で見てさやかが答える。被弾した時はどうなることかと思ったが、若干の応急措置で最低限動けるようにはできたと思う。もっとも、戦闘が長引いたらその限りではないが。

「じゃ、いこうぜ。俺の援護、よろしくな」

 さやかが再びWスペイザーの操縦席に納まったのを確認すると、甲児は手を振ってパイルダーの方へと駆け出した。少し向こうに膝をついたXの姿も見える。

「任せて。私は甲児くんのパートナーなんだから!」

 甲児に向かって大声で答えるとさやかはシートベルトを締めた。Wスペイザーが振動する。計器類が点灯し発進準備が整っていく。

 先程さやかの乗るWスペイザーに一発かましてきたベガ獣は、今、ドリルスペイザーと合体したグレンダイザーが戦っているが苦戦を強いられている。近辺に集落のあるこの場所では、グレンダイザーの強力な武器は使いにくい。敵はそれがわかっているのか、嫌な立ち回りをしているようだ。周囲の小型円盤はマリンスペイザーが攻撃しているが、なかなか数が減っていかない。戦い初期の円盤より戦闘力も上がっているし堅牢になってもいる。スペイザー一機で相手をするのは難しいだろう。それでもしばらくの間、操縦者のいないマジンガーに敵を近づけずに踏ん張ってくれたマリンスペイザーとヒカルには感謝しかない。

 Xが飛び立つ。WスペイザーもXの後を追うようにして離陸する。

「待っててちょうだい、私のロボット!」

  

 ベガ星との戦いが集結するまであと少し……

  

  

NEXT

メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで

さやかさんと甲児くんの一コマでした。
Wスペイザーが被弾して落下していくのを見て、「悪い!」の一言でそっちへ行っちゃったXくんを、あと3人は若干呆れた顔して見てました。実はさやかさんも「こなくていい!」と思ってたけど、戦況を見るとさほど問題なさそうだったので、二人の方がWスペイザーの復旧も早く出来るからまぁいいかと思ったのでした。
情景描写が足らないけど、甲児くんはWスペイザーの外回りチェックしながら、さやかさんはしゃがみこんでコクピット内を点検しながらの会話でした。多分大声(笑)。
この一族、代々ロボットの研究してることにしちゃったので、甲児くんも戦いの後はそっちの道と兼業で正義の味方をしていただこうかと。