死にたかったんだろうな。今となってはそう思う。
父母が殺され、グレンダイザーの暴走でルビーナをも手にかけてしまったと思った時、燃える王都を見てデュークはグレンダイザーを葬らねばならないと思った。自分の命を諸共に。
そして。ルビーナが本当に死んでしまった時は、ただただ何も考えたくなかった。何もかも放り出して、ルビーナのいる世界に行ってしまいたかった。グレンダイザーが暴走する可能性も、暴走したら周囲がどうなるのかということにも意識を向けることが出来なかった。
そんな自分は王の器ではない。
デューク=フリードは幼いころから、立派な王子素晴らしい王子と言われ、そうあらねばならないと思ってきた。皆の評価と自分自身に大きな乖離があることに気付いたのはいつだったか。皆の期待が重荷だと自覚したのはいつだったか。
そんなデュークの内心に両親さえも気づかないまま時が流れ、やがてルビーナに出会った。自分とは違う価値観を持ち、その立場ゆえに周囲から腫物のように扱われている、気高く可哀そうな少女。
ベガ星がフリード星にとって厄介な相手であることは知っていた。グレンダイザーの存在のおかげでかろうじて対等であるように振舞えているだけで、その実ベガ星がフリード星を見下していることもわかっていた。
それでもデュークはルビーナに惹かれていった。ルビーナもデュークの気持ちに応えてくれた。やがて彼女はデュークの婚約者となり、スターカーの騎士の素質があったテロンナと共にフリード星に留学してきた。
ベガ星の者をスターカーの騎士として受け入れるのは初めてのことだった。おそらくデュークとルビーナの婚約が許された背景には、テロンナの受け入れという条件もあったのだろう。
スターカーの騎士はグレンダイザーに搭乗できる者を確保するための制度だ。フリード星では年々グレンダイザーに搭乗できる人間の数が減っていた。王族ですら半数の者はグレンダイザーに搭乗出来ず、現在では王と王弟である叔父とデュークの3人だけ。貴族の中でも滅多にいない。
そこで、婚姻外交で他星に渡った者の子や孫の中で素質のある者もフリードに戻して共に訓練させることになった。そうやって出来上がったのがスターカーの騎士という制度だった。
とはいえこの制度は危険をはらんでいた。他星の者にグレンダイザーを任せることになるのだから。そのため選抜は慎重に行われ、ベガの者はたとえ素質があったとしても、何のかんのと理由をつけてこれまで誰ひとり受け入れてはこなかった。テロンナは初めてのベガからの候補だったのだ。
周囲は当初警戒していたが、テロンナ自身は真面目で人柄にも問題はなく、ルビーナと共に徐々にフリードの人々に受け入れられていった。
おそらくあの頃がデュークにとって最も幸せな時期だった。父がいて母がいて妹がいてルビーナがいてテロンナがいて多くの友人たちに囲まれ、フリード星は平和を謳歌していた。しかしデュークはルビーナを愛することによって、それ以外の事柄が徐々に見えなくなっていっていた。いや、敢えて目を逸らしていたのかもしれない。
本当は知っていた。フリード星の平和がどうやって成り立っているのかを。ベガ王の言うまま、ベガ星連合の敵を倒すためにグレンダイザーが使われていること。その「敵」は表向きの討伐理由である「非道なこと」をしていない可能性が高いこと。かつては父が、そして今はスターカーの騎士長である叔父が担っているその役目を、間もなく自分がしなくてはならないこと。逆らえばフリード星の平和は保障されないだろうこと。
華やかなスターカーの騎士の、決して表には出せない…王族しか知らない裏の顔。そんな事情をルビーナは知らない。驚いたことに父王からは何も知らされていなかったのだ。そんな彼女を叔父は「お花畑に住むお姫様」と揶揄したが、デュークはそれでいいと思っていた。ルビーナには知られたくなかった。知らないままでいて欲しかった。ただ、ルビーナの志と真逆のことをしなければならない自分を思うと、それをルビーナに知られたらと思うと、デュークは恐ろしくてたまらなくなった。
ルビーナを愛していた。ルビーナはデュークの全てだった。自分では自覚しないまま、デュークは恐らくルビーナに依存していた。彼女がいればベガとの関係は悪くならない。そう思っていた。
でもそれは正しくはなかった。
ベガはむしろ、そんなデュークの思惑を利用してきた。カサドを抱き込んだのもその一つだろう。
カサドは、バロン家出身の女性を祖母に持つとある星の王家の末子だった。ベガ星連合の中では重要視されていないが、古くからフリード星とは交流がある星だ。フリード星に来た頃のカサドは、言葉少なくおとなしい少年で、特に問題があるという判断はなされなかった。頭脳明晰で、隻眼でありながらも剣の腕は騎士団で5本の指に入るほど。将来を嘱望されていた存在だった。デュークは彼を友人だと思っていた。それがまさか…。
両親の死、友人だと思っていた男の最悪の裏切り、婚約者の星がそれに加担していたこと。
あの時のデュークの目にはカサドしか映らなかった。ベガ星兵士ではなくカサド一人。こんな時でさえルビーナを連想させるベガからは目を逸らしていたのかもしれない。
時々思う。あの時もしも自分が冷静に振舞えていたらどうだっただろうかと。けれどそれは考えても仕方のないことだった。
あの一瞬。怒りが頂点に達したあの瞬間、デュークはグレンダイザーと同化したような気がした。自分がグレンダイザーでありグレンダイザーが自分。グレンダイザーの持つ無限の力をすべて引き出せるような万能感。そして目の前が真っ赤に染まってカサドを殺すことしか考えられなくなった。
あとのことはよく覚えていない。王都の民の悲鳴も燃え盛る炎の熱さもデュークには届かなかった。正気に戻ったのはルビーナを殺してしまったと思った時だ。けれど、ルビーナへの想いすらもカサドへの怒りを鎮めることは出来なかった。デュークは目の前のルビーナを助けることよりカサドを追うことを選び、グレンダイザーはカサド一人を葬るために王都を破壊した。
あのときデュークはグレンダイザーを制御できなかった。グレンダイザーは間違いなく暴走していた。しかし、グレンダイザーのあの暴走が、デュークの意を汲んだものでないと言えるだろうか。デュークの中のどこかに、愛するルビーナを疎ましく思う気持ちがあったのではないか。自分の内面の苦悩も知らず「素晴らしい王子」だと称える王都の人々を嫌悪していたのではないか。
デュークは自分自身への問いかけに否と言える自信がなかった。そしてそんな自分を心底嫌悪した。そんな自分は生きていてはいけないと思った。
そして逃げた。どこか遠い星へグレンダイザーと自分を葬るために。甲児の言葉がなければ、地球の人々の心遣いがなければ、デュークはグレンダイザーで太陽へと突っ込んでいっただろう。それによって太陽に…ひいては地球に悪影響を及ぼすかもしれないということさえ想像せず。
ひどい男だとデュークは思う。自分のこと以外、何も見えておらず、考えることすらしなかった。優秀な王子、素晴らしい王になると期待されていたデュークの、これが正体だ。
それでも。
そんな自分を必要としてくれるなら、自分を救ってくれた地球のために戦おうと思った。なのにそれさえも貫くことが出来なかった。ルビーナのこと、ルビーナと一緒に逝くことしか考えらえず、再びグレンダイザーを暴走させてしまった。
けれど、破滅に向かおうとするグレンダイザーをさやかが止め、マリアが説き、ヒカルの力が甲児をデュークのところへ連れてきた。
そして。デュークはルビーナの死を受け入れた。ルビーナの遺体はフリード星へ戻るまでグレンダイザーの中で保存される。その美しい姿のまま。
不思議なことにそれからは、戦いで我を忘れそうになっても、グレンダイザーを暴走させることはなかった。グレンダイザーの中にいるルビーナが止めてくれているのだと、デュークは信じている。
「兄さん、やっぱりここだったのね」
振り返るとマリアがいた。地球に来た時はまだほんの子どもだったのに、もはや少女とすら呼べなくなりつつある妹。
春の花の香りは夜になっても淡く漂っている。明るい月の光の下、マリアがやけに大人びて見えた。
「どうしたんだ?」
「どうしたはないでしょ。甲児たちが探してるわよ。今日の主役はどこに行ったんだって」
ベガ獣数体と共に総攻撃をかけてきたベガ星連合の艦隊を打ち破ったのはほんの数時間前のことだった。
グレンダイザーも、宇宙で行動できるよう改造がなされたマジンガーXも、3機のスペイザーももちろん無傷ではいられなかったが、それでも何とか勝利できたのはベガ星連合艦隊の攻撃が生彩を欠いていたからだろう。ほんの体裁程度に攻撃してきて、軽く反撃されただけで戦線を離脱する艦が多いのでは作戦行動などとれるはずもない。そうなったのは、水面下で動いてくれていた反ベガ星連合の人々の働きによるものが大きい。総攻撃の前に、形ばかり参加した連合の星からその様に動くと連絡さえ受けていた。
とはいえ、ベガ獣はそうはいかない。ベガ星の総力を挙げて作り上げたベガ獣は強かった。デュークですら一度は死を覚悟したほどに。
「どうしたの?」
マリアが不思議そうな表情でデュークの顔をのぞき込んだ。そんなマリアの頬には小さな絆創膏が貼られている。甲児は骨折した腕を吊っているし、さやかは肩を痛めていた。衝撃に耐えられるよう充分に守られたコクピットにいてさえこれである。今日の戦闘の激しさが知れようというものだ。無傷だったのは、「さすがグレンダイザーの巫女」とさやかとマリアに感心されていたヒカルぐらいのものか。
それでも今この時は、誰もが浮かれていた。ベガの母艦スカルムーンは破壊されベガ王は炎に消え、そしてベガ本星にはもう他星を攻めている余力がないことがわかっている。戦いは終わったのだ。
ベガの本星でも政変が起こっているだろう。ベガ王の死の知らせと共に王位はテロンナの弟に譲られ、ベガ王の下で権力を握ってきた重臣たちは自分たちの失脚を知ることになる。
以前デュークも会ったことがあるテロンナの弟は、幼いながらも賢く思慮深い少年だった。両親よりむしろ腹違いの二人の姉を慕っていたことも知っている。彼が生まれるまで次代の王としての教育を受けていたテロンナは、生涯彼を支えていくことを誓ったと聞いた。ベガ星内の心ある者たちも幼い王に仕え、彼が道を誤らないよう見守っていくだろう。
今後、ベガ星連合は緩やかに解体していくことになる。ベガ星の支配を受けない、新しい時代が始まろうとしているのだ。
では、新しい時代をデュークはどう生きていけばいいのだろう。戦いの間は勝って生き延びることを考えていれば良かった。けれど、明日からはもうグレンダイザーで戦う必要はない。地球の皆にとって自分はもう何の価値も意味もない存在になった気がして、デュークは勝利に湧く人々の中からそっと離れたのだ。
わかってはいた。フリード星へ帰れるのだということは。しかしそれは、デュークがこれまで見ずに過ごしてきた現実と向き合うということでもある。
「なぁ、マリア。一度聞きたいと思っていたんだ。どうして僕のことを信じてくれたんだ?」
その時、ずっと心の奥底にあった問いかけがふと口をついた。
「え?」
マリアは素っ頓狂な顔をした。思いもかけないことを聞かれたというように。
「まわりの者は皆、僕が父上と母上を殺し、王宮を破壊したと言っただろう? それに王都を焼いて大勢の民を殺したのは事実だ。目撃者もいた。信じない方が不思議な状況だった。なのになぜだ?」
「……なぜって…当たり前じゃない。兄さんは父上と母上や王宮の皆を殺すようなことはするはずないもの」
あまりにもまっすぐな否定にデュークの方が動揺する。
デュークが地球でグレンダイザーを暴走させるところを、マリア自身が見ていたのだ。王都がどうなったかなどたやすく想像できるだろう。
「でもグレンダイザーを暴走させたのは事実だ…」
マリアはデュークをちらりと見た後、その視線を上に向けた。この空のどこかにあるフリード星を見上げるように。
「私、ずっと昔からグレンダイザーが怖かったわ。フリード星の守り神を怖いなんて言えないって思ってたから誰にも言わなかったけど。だから素質があるって言われてもスターカーの騎士にはなりたくなかった」
マリアが続けた言葉に、デュークは息をのんだ。あの頃の明るく元気な、何の屈託もなさそうに見えた妹がそんなことを考えていたなんて、思ったこともなかったからだ。
「マリア…」
「私には普通の人とは違う能力がある。そのことは皆がわかってくれてた。あのときグレンダイザーが怖いって誰かに言っていたら、ちゃんとグレンダイザーを調べてもらってたら、兄さんが暴走させるようなことにはならなかったかもしれないって時々思うの」
「そんなことはない!」
「そうね。わかってる。でもそう思っちゃうのは仕方ないのよ。私には能力があるんだから」
でもその力は、両親の死もグレンダイザーの暴走も教えてはくれなかった。一体自分の予知能力とは何のためにあるのかと思ったこともある。
「だからね、兄さん。兄さんだけが背負わなくてもいいのよ。私も背負うわ、兄さんの罪は私の罪でもあるんだから」
マリアはもう子供ではない。いや、マリアのことをいつまでも子供だと思っていた自分が間違っていたのだ。
「……それに、大きなくくりで言えば、ずっとグレンダイザーに頼ってきたフリード王家の罪でもあるかもしれないわね。グレンダイザーがどんな能力を持っているのか、私たちはきちんと調べることすらせずに守護神としてあがめてその力に頼ってきた。よく考えてみれば怖い話よ? 何が入っているかわからない料理を食べてるようなものなんだもの」
「さやかの作る料理を食べるみたいなものかもね」とマリアは笑う。
「それに私は、フリード星を出て兄さんを追ってきた。国民にしてみれば裏切りに見えていたかもしれない」
当初の計画では、カサドが両親とデュークを殺し、グレンダイザーを奪うつもりだったのだろう。錯乱したデュークが王と王妃を殺し、それを止めようとしてカサドが誤ってデュークを殺した…のような理由をでっちあげて。
グレンダイザーは奪えなかった。しかしデュークはベガの予定よりはよい働きをした。王都を破壊し逃亡する…という。グレンダイザーがデュークの意思に反して暴走している事など知る由もないフリードの民は、あの光景を見て何を思ったのか。
フリード星の評判は地に落ちた。フリード星人だというだけで侮蔑と偏見の目で見られるようになったのだと、ルビーナとテロンナに従っていたフリード出身の少年は言っていた。だから、フリード星の名誉を回復するために自分がベガ星軍に志願したのだと。同じような気持ちでベガ軍に入ったフリード星人は多いという。
乗り込んできたベガの者にフリード星の支配階級は逆らえなかった。もうグレンダイザーはないのだから。
ベガの力による支配が始まったフリード星。それは圧政と呼べるものだったという。王と王妃を殺し王都を破壊した王子はグレンダイザーと共に消え、王弟である叔父は行方不明。王家の血を引く残る一人、王女グレースマリアすらフリードを捨てて出ていった。
もはや自分たちには頼るべき者はない。フリードの星の民の絶望は深かっただろう。
たとえ後から王と王妃の死の真相が伝わったとしても、その絶望の記憶は消えることなく、グレンダイザーが王都を破壊した事実もなくならない。
「フリード星に戻ったら、すべての事実を明らかにする。誠心誠意謝罪する。償えというのならこのいの……ぶっ…」
そこまで言ったデュークの口を、背伸びしたマリアが思い切り手で塞いだ。
「そこまで!」
デュークの口から手を放したマリアが、怖い目をして睨んでいる。
「何考えてるのよ、兄さん!」
腰に手を当てデュークをにらみ上げるマリアの姿は、どこかの誰かにちょっと似ていた。
「フリードのみんながどうしても兄さんを受け入れられないって言うのなら。その時は地球に戻ってくればいいだけよ。甲児もさやかもおじさまも、いつでも戻ってきていいって言ってくれたもの!」
あっけらかんと言うマリアに驚かされる。
「………え……」
「地球はね、私たちのもうひとつの故郷みたいなものなの。いつ帰ってきてもいいように、私たちの部屋はそのままにしておくって言ってもらってるもん」
「……………」
そんなことを言ってもらっているなど、考えもしなかった。
「ここに…地球に戻ってきても……いいのか……」
甲児、さやか、ヒカル、宇門、弓、所員たち……。大介の脳裏に彼らの顔が浮かぶ。
自分はきっとその選択肢を選ばないだろう。けれど、そう言ってくれる存在があるということがこの上なく心強い。かつて、すべてをわかった上でデュークを肯定してくれた甲児の言葉が、死へ向かおうとしていた自分を押しとどめてくれたように、地球の存在はきっとこれからのデュークの支えになる。
「僕はマリアの事がうらやましかったのかもしれないな」
「え?」
マリアは自分に向けられる言葉を気持ちを愛情を、揺るぎないものだと信じている。それを信じられる強さを持っている。たとえ裏切られても、そこに至った理由を見極めることのできる目と、事実と向き合う強い心を持っている。マリアならきっと目の前の現実から逃げるようなことはしない。
「マリアは可愛くて素直で両親にも臣下の者たちにも愛されていて、マリアの前には広い未来が広がっていた」
デュークはそんな妹が眩しかった。
「でも、僕の前にはフリード王となる未来しかなかった。それを嫌だと口にしたことはない。でも、フリード星のためにベガ王の言いなりになって他星を攻めることさえしなくてはならない…そんな立場のフリード星の王になることが僕は本当は……本当は嫌だったんだ」
だから逃げた。あの時に。逃げたいと思ったデュークの意を汲んだグレンダイザーと共に。逃げたかった。王の座から。強い王であれと望む声から。王都を炎の海にしてルビーナを殺してしまった現実から。
たどり着いたのが地球でなければどうなっていただろう。デュークは時々考える。甲児やさやかと出会わなければ、デュークはきっとどこかの太陽にグレンダイザーごと突っ込んでその命を消していただろう。ベガ星連合はさらにその勢力を広げ、やがてはこの地球さえその支配下にくだることになっていたかもしれない。いや、きっと甲児たちはそれをよしとせず最後まで抵抗するだろう。その結果がどうなるかのかは考えるまでもない。
デュークはぶるっと身震いをした。そんな未来が来なくて良かった。そのためだったら、自分が生きてきた意味がある。
甲児が自分を生かしてくれた意味がある。
甲児はずっとデュークを肯定し続けてくれた。自分という存在を信じられず嫌悪すらしていたデュークに、その言葉を行動を肯定することで、少しずつ少しずつ「生きていてもいいんだ」と語りかけてくれた。甲児はずっとデュークの心に寄り添ってくれた。
本当は叱り飛ばしたいこともあっただろう。甘えるなと言いたいこともあっただろう。
けれど甲児はそうはしなかった。ボロボロだったデュークの心に少しずつ少しずつ薬を塗りこむように重ねられた言葉は、間違いなくデュークへの信頼と友情から発せられたもの。すべてを肯定するような言葉の裏で、きっと甲児はさやかと共に、デュークをフォローする行動を取っていたに違いない。
そんなことは簡単に想像できたし、事実、ルビーナとのことがあった後、宇門から聞かされてもいた。
自分達は決して見捨てないと、甲児の言葉はそれをずっと伝え続けてくれていた。たとえ戦いが終わっても、デュークが地球の人々にとって価値のない存在になるわけじゃない。戦いがあろうとなかろうと、ずっと変わりなく大切な友人なのだ。それを忘れてしまっては、今度こそ甲児に怒られてしまう。
「兄さんが王になりたくないなら、叔父様もいるし、私だっているわ。なんなら遠い血縁を引っ張ってきてもいい」
マリアのきっぱりとした言葉に思わず目を見開く。
てっきり殺されていると思っていた叔父は、王宮の地下牢に幽閉されて生きていた。王宮突入の際、応戦したスターカーの騎士をカサドが皆殺しにしたため、グレンダイザーに搭乗できる人員もしくは血筋を保持するために叔父は殺されずにいたらしい。長年の不自由な生活で心身ともにダメージは大きいようだが、デュークとマリアの帰還を心待ちにしているとフリード星から連絡が来ていた。
「兄さんが一人でなんとかしなきゃいけないなんて考えなくていい。私も叔父様もケインやシリウスや…モルス様だって助けてくれる。みんな、兄さんを支えてくれるし、兄さんだって叔父様や私を支えてくれるでしょ?」
「…………そうだな」
自分は決して一人ではない。地球での大介に甲児やさやかや宇門や弓がいたように、フリード星にもデュークのことを考えてくれる人がいる。デュークだってその人たちを支えたいしそのためならどんな苦労も厭わない。
地球と地球の人々に生かされたこの命を、今度はフリードのために使おう。たとえフリードの者に一生許されることがなくとも、フリードのために生きていこう。そのためには自分の命を投げ出したりしてはならない。この命が長く続けば続くほど、フリードに貢献する時間が増えるということなのだから。
そしてほんの時々だけは、地球へきて心を癒すことを許してもらおう。そうやってまた英気を養い、フリード星とフリード星の人々のために生きていく。
そう。戦いが終わっても、デュークにはやるべきことがある。
「兄さん?」
「行こうか、マリア。甲児君たちが待ってくれてるんだろう?」
デュークはマリアをまっすぐに見てにこりと笑った。
「うん、兄さん! みんな傷だらけなのにテンション高いから、今日は寝られないかもしれないわよ!」
「そこは早く休んだ方がいいと思うぞ?」
軽く笑った大介の顔をとても嬉しそうにマリアが見上げ、その腕にぎゅっとしがみつく。
デュークはそんなマリアを見て目を細めた。
傷跡はあっても傷口はもうほとんどふさがっている。だから自分はきっと大丈夫だ。
今度こそ目の前の現実から逃げたりしない。
デュークは改めてそう固く心に誓って、自分を変えてくれた皆のもとへと足を向けた。
メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで
あーなんかもう、支離滅裂でスミマセン。いろいろいじってたんですが、これ以上どうしようもないと思ったのでこんな感じで。反論異論はありましょうが、お許しくださいませ。
当初大介さんと甲児くんの会話の予定だったんですが、この二人をうまく動かせなくてマリアちゃんに変更しました。
本編で、どうして甲児くんが大介さんを信用したのかがちゃんと描かれてないので、イマイチこの二人の関係がわかんなくて。
「吾郎が懐いたから」だけではダメだと思うの。
あと、この二人、本当に何を考えてるのかよくわからん!!
今回のシリーズで甲児くんと大介さん二人での出番がないのはそういう理由で、故意に絡ませたくなかったからではありません(笑)