マジンカイザー 
-光輝たる魔神(かみ)- (10)

HARUMAKI

 

「出撃」



米国のミケーネに対する攻撃は失敗に終わった。
しかし、その結果から得られた情報には、今後の戦略を組み立てる上で重要なポイントが何点かあった。
超魔軍団と名乗ったミケーネの戦闘獣は、明らかに以前の戦闘獣よりは戦闘能力に長けているという事。
そして、超魔軍団を名乗る個体はあまり数が居ないのではないか、と言うことである。
何故か?
それは、戦闘能力が劣る人工知能の量産型戦闘獣が存在し、そしてそれを最初にぶつけることで、あわよくばその時点で敵の殲滅を図り、最低でも敵戦力の分析をした上で出撃している点から推測されるものである。
そこには、超魔軍団を温存したいというミケーネの意図が見え隠れする。



(厄介なことだな。)
科学要塞研究所で今回の戦闘結果の解析レポートを読みながら、鉄也は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
超魔軍団があまり多くないのではないか、と言う推論は、油断は出来ないにしろ明るい話題である。
問題は、量産型戦闘獣軍団だ。
マジンガーチームが戦闘に入った場合も、まずは量産型戦闘獣軍団と戦端が開かれることが予想される。
一機一機の戦闘能力では比べるまでもなく、マジンガーの方に軍配が挙がる。しかし、彼我の戦闘能力に極端な開きが無い場合、戦闘は所詮、数の論理に支配される。
いかに強かろうと無限に戦えるわけではない。エネルギー、弾薬は補給しなければならないし、操縦者の体力にも限界がある。いずれは、数の暴力に飲み込まれてしまう。
幸いにも量産型マジンガーという新戦力があるため、ローテーションを組めるようになったが、問題は補給を受けるまでの時間を如何に伸ばすかだ。
マジンガーの内蔵武器は多彩であるが、敵に大打撃を与えられるような物はエネルギー兵器が多い。いちいち雑魚に使っていたら、すぐにエネルギー切れを起こしてしまう。
かといって実弾兵器や打撃武器を使っていたら、止めを刺すのに時間がかかり、結局弾薬の浪費と、操縦者の疲労が蓄積されるだけであろう。
「…あの人に期待するしか、ない、か。」
溜息をつきながら鉄也は腰を上げた。
司令室から廊下に出ると、丁度書類を抱えたジュンがやって来たところであった。
「あら、鉄也。どこへ行くの?」
「ああ、ちょっと白倉博士の所に、研究成果を聞きにな。」
白倉博士の名を聞いたとき、ふっ、と微妙にジュンの表情が動いた。
「…じゃあ、私もついて行くわ。どうせ後で鉄也にも用事があるし。」
「ん?そうか。その方がいいかも知れんな。」
女性心理については甲児とどっこいな鉄也は、もちろんそんな微妙な変化に気付くはずもなく、軽く返事をして廊下を歩きだした。
(…やっぱり、何か違う……)
後ろを付いて歩きながら、ジュンはこの間から感じている違和感が強くなっているような感覚を覚えていた。
なにか、微妙に自分と鉄也の間のズレが広がっているような。
それは、元々は、鉄也が、自分の感じている焦りをジュンに悟られまいとする意地で、ジュンに対して無意識の壁を作ってしまったことが原因ではあった。
以前のジュンであれば、その鉄也の焦りを見抜くこともでき、それをさりげなくカバーすることが出来たであろう。
しかし、現在、ある事柄が彼女の目を微妙に狂わせ、結果、自分からもそのズレを広げてしまう事になっていた。
それは…。



「白倉博士、入ります。」
科学要塞研究所武器開発室。
ドアのプレートには、そう掲げられていた。
鉄也達はその室内へと足を踏み入れる。
むにぃい〜〜〜ん。
いきなり繊手が伸びてきて、鉄也の両頬をびろん、と引っ張った。
「ふぁ、ふぁにほするんでふかっ!?、ひゃはせ?」
「て〜つ〜や〜っ!!、おめえは、何回言ったら分かるんだっ!俺のことは、瑠璃ちゃんと呼べって言ってんだろうが!!」
禁煙パイポをくわえながら伝法な口調で鉄也に怒鳴りつけたのは、女性としては平均的な身長だが、鉄也からすると頭一つ分以上低い、眼鏡をかけた白衣の人物であった。
ころころと表情の変わる、生き生きした切れ長の眼差しに、ショートカットの髪という若々しい美貌の女性であるが、もうすぐ三十路の微妙なお年頃。
科学要塞研究所開発部主任、白倉瑠璃博士その人である。
元は故真田博士が大学で教鞭を取っていたときに、その教室に所属していた。
真田博士をして、「天才」と言わしめた才媛だ。
元々は武器関連の開発を担当してもらうために招かれたのだが、今では、三博士(一人は、故人であるが)に代わり、科学要塞研究所の研究部門を一手に引き受けている。
「は、はなひへふははい、ひらくらひゃかせ。」
これが男であれば問答無用で殴り倒しているところだが、相手は非戦闘員の女性、手を上げるわけにもいかない。さしもの鉄也も困窮するばかり。
「瑠璃ちゃん!!」
「…りゅりひゃはせ。」
「…まあ、良かろう。」
やや不満げな調子でふん、と鼻を鳴らすと、瑠璃は鉄也の頬から指を離した。
(…何故、こんな目にあわなきゃいかんのだ?)
ドッ、と疲労を感じ肩を落とす鉄也。
それにしては、怒りの感情が湧かないのが我ながら不可解ではあるのだが。
そんな2人のやり取りを。
複雑な想いでジュンは見つめていた。
(…仲、いいわよね…。)
これまで、ここまであっさりと鉄也の懐に入り込んだ女性はいなかった。
ま、当たり前であろう。
何しろ、鉄也という人間は剣造により戦闘のプロフェッショナルとして育て上げられた為、一見すると非情なまでに怜悧な雰囲気を漂わせており、一般人、特にうら若き女性には近寄りがたい。
が、その精神に纏った鎧の下にある本質を分かる人間にとっては、彼は非常に繊細で不器用という、何とも愛すべきキャラクターになってしまう。
言い換えると、からかいがいのある、おもちゃ。
そこまでを初対面から看破した瑠璃という人物も、たいしたものである。
だが、そのことがジュンの心を掻き乱すことになっていた。
幼い頃から鉄也と2人、厳しい訓練に耐えてきた。その辛さを分かち合い、励まし合って成長してきた2人。
鉄也のことなら、自分が一番分かる。彼の側に自分が居ることが、当たり前。
そう、疑問もなく思っていた。
しかし、そんな鉄也の心に苦もなく入り込んできた、女性。
それを考えるだけで、胸に沸き上がる、形容の出来ない、どす黒い感情。
嫉妬。
その感情を、ジュンは受け止めることが、出来ない。
彼女も、あまりにも純粋に戦闘のプロフェッショナルとして育てられたため、一般的な恋愛経験は無いと言っても過言ではなく、また、これまでに鉄也に接近する女性という者がいなかったため、そんな感情を持つことが無かったのだ。
だから、その感情を上手く整理することが出来ず、逆にそれを抱くことに罪悪感すら憶え、結果、鉄也への距離も微妙に開いてしまう事になっていた。
そんな複雑な想いのジュンとは知らず、鉄也は瑠璃と現状の懸案点について相談をしていた。
「ふむ、まあ、マジンガーってやつも大飯ぐらいだからなあ。雑魚がうじゃうじゃ出てきたら、確かにガス欠になっちまうなあ。」
「ええ。ですから、白(ギヌロッ)…瑠璃博士に何か良いアイデアが無いか、と。」
と、瑠璃の眼鏡がキラーン、と怪しい輝きを放ち、禁煙パイポがピコピコと上下に揺れた。
「ふっふっふ、まーかせろ!この瑠璃ちゃん、こんなこともあろうかと準備万端だ!」
一瞬、瑠璃のバックに雷鳴が鳴り響いたように思えたのは、気のせいであろうが、嬉々としてキーボードに指を走らせる姿は、正しく、マッドの系譜。
「まずは、こいつ。ギガサンダーブレイク。飛行要塞オリュンポスの大エネルギーを利用した兵器だ。1km四方にサンダーブレイクがシャワーのように降り注ぐ。」
「…我々まで巻き込まれてしまいますが…。」
「いちいち細かいこと気にするな!よけりゃ良いだろうが。…まあ、問題点もあって、一発打つとオリュンポスのエネルギーも空になっちまうがな。」
「…それじゃあ、落ちてしまうじゃあありませんか。却下。」
ちぇ、と舌打ちする瑠璃は次を示した。
「それじゃあ、こいつはどうだ。光子力ミサイル。光子力エネルギーをフィールドで閉じこめて、それを火薬代わりにミサイルに詰め込んだ物だ。」
ほう、と鉄也も関心を示す。
「なかなか威力もありそうですね。良さそうじゃないですか。」
「そうだろ。でも、フィールドの安定性に問題があって、時々暴発するかも知れないんだけどな。」
「……却下。」
「なんで!?」
鉄也の苦悩は終わりそうもない。
そして。
(…やっぱり、仲がいい…)
ジュンの悩みも、続きそうで、ある。



手袋に手を通す。
少し出来た隙間を拳を握ったり、開いたりして落ち着かせる。
そんな風に真紅のガードスーツを身につけていく過程で、甲児は自分の心が湧き立つように高揚していくのを感じていた。
まあ確かに血の気の多いのは認めるが、決して戦いを望んでいるわけではない。
しかし、『あいつ』が、待っている。
そう考えるだけで、全身の血が、騒ぎたつ。
ふつふつと滾るものを押さえるように、ヘルメットに手を伸ばす。
戦闘服のデザインは以前のものと殆ど変わらないが、超高々度戦闘、ひいては宇宙空間での戦闘を想定し、宇宙服の機能を付加されていた。
小脇にヘルメットを抱えて更衣室から廊下に出ると、丁度さやかも着替えおわって出てきたところだった。
さやかの戦闘服は、ヘル戦初期に使用していたものとよく似ていたが、やはり宇宙服の機能が備わっている所が大きな変更点だ。
2人は思わず、お互いの姿に見いってしまった。
「…久しぶりね、その姿を見るのは。うふふ、すっごく嬉しそうよ、甲児。」
感慨深そうに言うさやかの顔も、隠しきれない高揚感で輝いていた。
「お互い様だろ?もう待ちきれないって顔してるぜ?、さやかも。」
へへっ、と照れくさそうに笑う、甲児。
「そりゃ、そうよ。『彼女』の初出動なんですからね。」
さやかは足取りも軽く格納庫の方に歩き出しながら、当然、といった笑顔を見せた。
「そっか。そうだよな。『あいつら』が、待ってるんだもんな。」
並んで歩きながら、甲児の唇の端にも、野太い笑みが浮かぶ。
「そうよ。ね、急ぎましょう。お父様が待ってるわ。」
「ああ。」
2人は、殆ど駆け出さんばかりの勢いで格納庫へと向かった。



「オリュンポス、起動。」
静かな、それでいて良く通る声で弓の命令が下される。
移動飛行基地、オリュンポスの司令室にピンと張り詰めた緊張が走った。
「了解、起動シークエンス、開始。」
「計器、オールグリーン。」
「光子力エンジン、出力10、20、40、60%。」
三人娘達の指が、ボード上を滑る。
「よし、発進!」
「発進しま〜す。」
やや間の抜けた声で、操縦席の美那(意外に思われるかも知れないが、彼女は飛行機から、果ては潜水艦まで動かすことが出来るという特技を持っているのだ)がスロットルレバーの出力を上げていく。
フィーン…・・!
エンジンの作動音が大きくなっていったかと思うと、
フワッ。
と、オリュンポスの巨体が悠然と浮かび上がった。
おお、と安堵と歓喜の嘆息が司令室を満たす。計算上は問題なく浮かび上がれる、と頭では分かっているが、実際に浮かび上がってみると、改めての感慨も湧くというものだ。
弓もやれやれ、と内心で胸を撫で下ろすと、
「これよりオリュンポスは、高度1万メートルまで上昇し、マジンガー軍団の到着を待つこととする。」
と、次の指令を出す。
「りょーかーい。」
更にスロットルを開ける、美那。
オリュンポスの威容は見る間に雲間に吸い込まれていった。



光子力研究所の格納庫が開く。
スルん。
中から、まるで水面を滑るように、ピンク色をした戦闘機が飛び出してきた。そのフォルムも、まるでイルカのような流線型をしている。
操縦桿を握るのは、さやかであった。
「アテナイ、GO!」
澄んだ、しかし、気合いの入った声を張り上げる、さやか。
ウィーン。
汚水処理プールすぐ脇の雑木林の地面が突如二つに割れる。
その中から巨大な影がせり上がってきた。
黒を基調としたボディに胸の放熱版、そして兜を被ったような頭部、と、紛れも無くマジンガーの血筋を示しているが、そのプロポーションは優美な女性のそれであり、マスクはさやかを模している。
魔神の女神、アテナイA。
もともとは、Zの後継機として設計されていた。
しかし、Zの泣き所であった飛行能力の低さを解消するため、反重力装置を組み込んだウィングを装備したところ、予想以上にエネルギーを消費することとなり、結果エネルギー消費型の内蔵武器が、ブレストファイヤータイプの放熱兵器と光子力ビームに限定されてしまうこととなった。
これでは最前列で敵と渡り合うには少々心許ない。
しかし、その飛行能力の高さは魅力であるし、またサポート機体として考えると十分すぎる強力な機体でもある。
そんなわけで、対空能力の欠如が指摘されていたダイアナンAを強化するより、こちらをさやか用の新機体とするほうが現実的であるとされ、あらためて設計が見直された。
主な変更点としては、エネルギー兵器を補うために、胸部に多弾頭ミサイル発射管を二門装備し、それをカバーするボディアーマーを追加したことと、プロポーションの変化に伴う冷却効果の低下を解消するため、頭部から腰まで垂れる冷却用金属髪を採用したことである(もっとも、これはさやかの趣味であると囁かれているが)。
また、武装面で、レールキャノンに変型する三つ又の電磁矛と、それ自体に電源が内蔵されており、辺縁に光子力レーザーが十二基装備されている盾が用意された。
それらを携えたアテナイが、悠然と姿を現してくる光景は、まるで神話の女神のようで、幻想的な美しささえ伴っていた。
「ドルフィン、on!」
すると、そのピンクの戦闘機、ブレーンドルフィン号は誘導ビーコンに乗り、アテナイの頭部のドッキングポートに鼻面から急降下を開始した。その過程で、コックピットが後方に90度回転して行く。
ガキィーン
ドッキングポートと接続した時には、さやかは丁度アテナイの正面を向くような姿勢となっていた。
オオーンッ!
ドッキングと同時にアテナイの目が光り、全身にエネルギーが満ちあふれる。その余波で、金属髪がふわっと舞い上がり、陽光を反射してキラキラと輝いた。
「うふふ、これから宜しくね、アテナイ。」
愛おしげな表情で、そっと優しくコンソールを撫でると、きりっ、と表情を改め、背部のウィングを展開させる。シミュレーション上では何回もやっているが、実際にこの機体で飛ぶのは初めてなのだ。何しろ試験運用を行う前に戦闘が開始されてしまったので、まったくのぶっつけ本番、現地に着くまでの短い時間でもテストを行うこととなる。
「行くわよ。」
スロットルを踏み込む。
ふわ。
呆気なく、アテナイの体は、浮いた。
「え…?」
そのあまりの軽やかさに拍子抜けしたさやかは、試しに操縦桿を左右に振ってみた。
すると、アテナイはその動きに軽やかに追随する。まるで空中で舞を舞うかのように。
「…凄いじゃないの、甲児ったら。」
改めて甲児の才能に驚かされてしまう。留学前はあれほど勉強嫌いだった人間が、わずかな勉学の期間で重力制御システムなんて物を設計してしまったのだ。努力型の秀才タイプであるさやかにして見れば、嫉妬さえ感じてしまう程だ。
だからこそ、好きになったのでもあるが。
互いが互いを刺激しあう、恋人であるが、ライバル。信頼しあっているが、依存しない。
そんな、自分が自分で居られる、最高のパートナーだから。
(…じゃなきゃ、こんなに好きにならなかったかもね。)
口の端に、ほんのりと微笑みを浮かべながら、そのパートナーの登場を待つ、さやかであった。



スロットルをグッ、と握り締める。
フィーーン
両翼の折り畳み式翼に取り付けられたグラビティ・コントロールユニットにより、宇宙空間でも活動できるようになったパイルダー、G(グラビティ)パイルダーが、格納庫から空に躍り出た。
「お、上手く行ったみたいじゃねえか、アテナイ。」
と、開けた視界に優美な姿を捉えた甲児は、弾んだ声でさやかに通信を入れた。
「ふふーん、あったり前でしょ。それより甲児、久しぶりで緊張しすぎて、失敗しないでよ?」
さやかも嬉しそうな声であるが、しっかり茶々を入れるのは、忘れない。
「うぅるせえ!この甲児様が失敗なんてするかってえの!」
怒鳴り返す甲児だが、こんなのは仕事前の2人のレクレーションみたいなものである。
すぐに甲児は汚水処理プールに目を向けると、万感の思いを込めて呟く。
「待たせちまったなあ、相棒。」
言葉を続けようとしたが、想いがあふれすぎて、言葉にすることが、出来ない。
だから。
叫ぶ。
「マジーン、GO!!」
、と。
声を合図にプールの底が二つに割れ、中から鉄の城、マジンガーZせり上がってくる。
その姿が現れるや、パイルダーは吸い込まれるように頭部に近づいてゆく。
「パイルダー、ON!」
翼を折り畳んだ機体は、誘導ビーコンに乗りスムーズにドッキングを果たす。
オッオーーン!
全身に力が漲る。
俺は。
再び、魔神の頭脳と、なる。
ピー、ピー
モニターのランプが点灯する。
スクランダーが射出されたのだ。
改良を加えられ、宇宙(そら)を自由に駆けられるようになった紅の翼、Gスクランダーが。
マジンガーは、タイミングを合わせ、足裏のロケット噴射で空中に身を投げ出す。
「スクランダー、クロース!!」
その体を包み込むかのように、背後からスクランダーがドッキングした。
と、マジンガーは、あり得ないくらいの急旋回をして、さらに空中停止をして見せた。
「へー、スクランダーの方のグラビティ・コントロールユニットもいい調子じゃないの。」
「当たり前だろ?この俺が設計したんだぜ。上手く行かないはずがねえだろ?」
「はいはい、甲児、お父様がしびれを切らしてるわよ。行きましょう。」
さやかは甲児の自慢げな口調を、手慣れた感じでさらっと受け流すと、アテナイの身を翻して急上昇を開始した。
「あ、てめー、この、待ちやがれ、さやか!」
慌てて急上昇するZ。
2機の姿は、たちまち雲間に吸い込まれていった。



「Z、アテナイの上昇を確認。」
「科学要塞研究所からも、マジンガーチームの上昇を確認しました。先頭は、剣さんのグレートです。」
オリュンポスの司令室でも、彼等の出撃はモニターに捉えられていた。
「そうか。」
頷く、弓。
「おめでとうございます、所長。どうやらZの強化とアテナイの起動、どちらも上手く行ったようですね。」
そこに壬薙が、タイミング良くコーヒーを煎れて弓の前に差し出した。
「うむ、有り難う。」
礼を言って受け取った弓だが、顔色が優れない。
「…どうかなさいましたか、教授。」
「…4回目なんだよ。」
「は?」
なぞなぞのような弓の言葉に、虚を突かれる壬薙。
「いや、甲児君の肩に人類の命運が懸かるのは、Dr.ヘルとの戦いから数えて、もう4回目なんだ。彼にだけ、なんでそこまで重積が架かるのか、とね。」
そして、それを送り出すしかない、自分の不甲斐なさへの、怒り。
口には出さないが、弓の顔は、そう物語っていた。
「…大丈夫ですよ。兜君にしても、お嬢さまにしても、強い子たちですから。それに、」
そう言って悪戯っぽい笑顔を浮かべる。そういう顔をすると、えらく色っぽいと評判な壬薙なのだが、弓の前だけでしか浮かべないというのは、どこかの姦しい娘達の噂で、ある。
「兜君なら、自分に関係が無くても、すっ飛んでいって自分から参加してしまうでしょうね。」
「…そうかも知れないね。甲児君は、そういう人間だったね。…有り難う、壬薙君。」
ふ、と表情を崩すと、弓は壬薙に軽く頭を下げた。
「どういたしまして。」
壬薙も柔らかい笑みを返すと、モニターに目を移した。つられて弓も目を移す。
そこには、既に肉眼でも確認できるくらい大きくなったマジンガー軍団が、映っていた。



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