マジンカイザー 
-光輝たる魔神(かみ)- (14)

HARUMAKI

 

「独白」



キャピノーを、スコールが叩く。
忽ち視界がぼやけて、滲んでゆく。
コックピットの防音性能は、優秀だ。
だから、とても静かに風景はぼやけて行き、そう、まるで世界が溶けていくように…。
私一人を、隔絶するかのように。
定時の偵察に出た私は、深遠なる疎外感に囚われていた。
久しぶりに。
そう、小さい頃の私は、全てから疎まれていた。
父親さえ定かでない混血児、と。
母さえも私を疎んじ、そして、私を捨てた。
その時から、私は自分から周囲を隔絶した。
心を閉じていれば傷つくことは無かったから。
あの時まで。
その人は、こう言ってくれたのだ。
「お前の力が、必要だ。」、と。
その人―所長の顔は傷だらけで恐ろしくさえあったが、その眼の奥にある、巌のような優しさが、心地よかった。
そして、何よりその人の隣にいた少年を見たときに、私の心は強烈に引きつけられたのだ。
私と同じ、いや、更に深い虚無を抱えた、あの眼差しに。
その時から私は彼…鉄也の隣にいた。
ミケーネに対する戦闘のプロフェッショナルと化すための、苛酷なまでの訓練の日々であったが、私にはそれほど苦痛ではなかった。
私は、初めて必要とされたのだ。
所長に、そして、鉄也に。
鉄也と共に歩むことは、だから私にとってはきわめて自然で、当然のことだったのだ。
ミケーネを打倒するまで、共に。
…では、ミケーネを倒した、その後は?
つい最近、ふ、とした瞬間に浮かんだ何気ないはずの疑問。
…答えが、浮かばなかった。
確かに、私と鉄也は、パートナーである。
戦闘の。
戦闘中に鉄也に背中を預けることは私は絶対の信頼を持っているし、鉄也もそうだろう。
お互いの癖は知り尽くしており、死角をカバーしながら戦うことは、私たちにとっては歩くのと同じくらいに、容易いことだ。
だが。
それは、生涯を共に歩むことと、イコールでは、無い。
戦闘とは、あくまでも非日常なのだから。
日常のパートナーとは?
恋人、ひいては、夫婦、と言う事になろうか。
そうした構図に2人が居る姿を、私は描くことが出来なかった。
心を凍らせる疑問が、湧いたのだ。
私は、本当に鉄也を愛しているのか?
もしかして、同じ境遇の彼に自身を投影して、それに縋ってきただけではないのか?
足下を崩すかのようなその問いを、否定しきることが、出来なかった。
自分と同じ様な境遇の人間が居る。
いや、自分よりもひどい境遇だったかも知れない。
そんな思いが私の慰めになったことは、否定できない。
いや、鉄也に対する思いとは、憐憫が入った、優越感から来る物ではなかったのか?
それは、本当の愛情といえる物なのか?
ある人物が頭に浮かぶ。
相手の本質を一瞬で理解し、それに対して衒いもなく素の自分をぶつけることが出来る、私から見ても眩しすぎるくらいの人。
白倉 瑠璃。
彼女は、科学要塞研究所に着任して間もなく、鉄也の心を開いてしまった。
鉄也自身はそう感じていないかも知れないが、彼女に対する時、常に身に纏っている周囲を拒絶する雰囲気が、無い。
鉄也が、他人に心を開く。
私は、以前からそれを望んでいたはずだ。
しかし、いざ、そうなってみると。
心が…、どす暗い思いで満たされる。
鉄也が彼女に向ける笑顔が……つらい。
こんな狭量な私が、鉄也に相応しいのか?
彼女の方が、似つかわしいのではないか……?

雨は、まだ降り止まない。


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