マジンカイザー 
-光輝たる魔神(かみ)- (15)

HARUMAKI

 

「転機」



「我が君よ、如何なるお考えなのですか!?」
目前にあるは、絶対的な忠誠の対象であり、同時に絶対の恐怖の主。
だが。
問わねばならぬ、一軍を率いる将としては。
「何故に全軍を上げて攻め込まぬのですか?戦力を小出しにしても、彼奴らに阻まれるのは必死。いくら我が超魔軍団が個々の能力が高いとは言え、このままではじり貧でございます!」
魂魄を掛けた問いは、しかし。
「貴様がそれを知る必要は、無い。」
無情なる拒絶の壁を痂一つ付けることすら出来ない。
「で、ですが、!」
「くどい。」
尚も言い募ろうとした瞬間に、静かな、しかし実体化したかのような凄絶な威圧感が放たれ、舌は石と化し、いや、思考すらも凍結してしまう。
底知れぬ暗黒の炎を纏う魔界の主、闇の帝王。
その前では、超魔軍団の中でも超絶の力を備えた超魔将軍でさえ、赤子も同然であった。
「……承知いたしました。」
悄然と闇の帝王の前から下がる超魔将軍。
その後ろ姿が玉座の間から消えると、ぞわり、と空気が蠢いた。
「…シレーヌか。」
「ははっ。」
ふわ、と純白の羽が舞い散る。
闇の帝王の炎に照らされしは、美に祝福されたかのようなプロポーションの裸身。
頭には、優美なフォルムを描く、純白の翼。
見るもの全てが、天使か、女神を思い描くであろう。
その瞳に浮かぶ、獰猛な狂気に射抜かれるまでは。
「お喜び下さい、闇の帝王閣下。ついに、ついに彼奴を発見いたしました!」
優美、の一言しかない身のこなしで闇の帝王の前に拝礼したシレーヌは、喜色も露に報告した。
「なにっ!」
轟っ、と、暴力的なまでに闇の帝王の炎が戦慄く。
「して、彼奴は、いずこに!」
「は、日本に。」
勢い込んで問う闇の帝王は、しかし、シレーヌの答えに虚を突かれたように揺らめいた。
「ふ、ふふふははははは、日本…そうか、日本とな!くふははははは!」
闇に、障気が満ちた。



「おーい、シロー、今日、俺ん家来いよ。あの新作、手に入ったんだ。」
クラブが終わって更衣室で着替えていると、ぽんっ、と肩を叩かれた。
振り返ると、健作のいつものほんわかした笑顔があった。
あ、健作ってのは僕、兜シローとツートップを組んでいる奴だ。
自慢じゃないけど、結構良い線行ってるんだぜ?、僕たち。
「ええっ、本当かい?行く行く!でもよく手には入ったなあ、あれすっげえ人気だろ?」
「へへへ…、実は父さんに頼んでてね。」
「あ、ずっり〜!」
ちょっと罰が悪そうな顔で笑っているが、健作の親父さんは、有名な流通会社の社長をしていて、コイツは結構そのコネを利用したりしている。まあ、僕も時々その恩恵に与っているので文句は言えた義理じゃないけどね。
兄貴やさやかさん達が戦っているときに僕だけ遊ぶのは気が引けるけど、かなり優勢に戦いを進めているって話だし、ちょっと位はいいよね?
そんな訳で僕らはいつものようにたわいもない会話をしながら健作の家に向かったんだ。
だらだらと歩いて、健作の家もほど近い四つ角まで来たとき、
「あれ、タレちゃん、今帰り?」
と、横手から声を掛けられた。
「…美樹姉〜!いい加減に『タレ』は止めてくれと言っただろ〜!」
「ごめん、ごめん。なんかこっちの方が言いやすくてさ。」
悲鳴にも似た声で抗議する健作に、悪戯っぽくペロッと舌を出して片目をつぶって見せたのは、元気の塊、といった美人で、健作の姉さんの美樹さんだった。
なんか猫を思わせる、くるくる変わる魅力的な表情と、そこいらのグラビアアイドルなんか目じゃないって位素敵なプロポーションをした人で、そりゃもう、…やべ、涎出そう。
う〜む、僕、変な所が兄貴と似ちゃったのかも。反省。
因みに、『タレ』と言うのは、想像通りのアレで、健作の奴、どうも小学校まではやっていたらしい。
僕が結構健作の家に遊びに行くもんで、つい美樹さんがいつもの調子で使ってばれたんだよね。
それ以来僕の前では使われるようになったんだ。
健作は結構所じゃなくいやがるけど。
「まあまあ、健作、お詫びに今日はケーキ作ってあげるから、堪忍。」
ぱん、と手を顔の前で合わせて、拝むように笑顔で健作に謝る美樹さん。
ラッキー、美樹さんのお菓子って旨いんだぜ。
でも、健作の話じゃ高校生位までは料理はからっきしだったらしい。
「…へへへ、美樹姉、明兄ちゃん今日帰って来るんだっけ?」
にやり、と健作が意味ありげな笑みを浮かべた。
「!、な、何の事かな?」
途端、美樹さんの顔が真っ赤になった。
あーあ、相変わらず分かりやすいね。
ぱっと見、場慣れしてるようだけど、今時珍しいくらい純情なんだよね、美樹さんってば。
あ、明さんって言うのは、健作の家に同居している人で、美樹さんと同い年だ。
健作達とは血の繋がりはない。
何でも父親同士が親友同士だったらしいけど、明さんの両親が幼い時に事故で亡くなって、身寄りがなかったんで健作の親父さんが引き取ったそうだ。
いま、大学で父親と同じ考古学を専攻していて、日本中あちこちを廻っている。
どんな人かっていうと…。
ゾクっとする。
っていうのが、僕の感想だ。
いや、変な人って意味じゃない。
ちょっとぶっきらぼうな感じだけど、僕らには優しくしてくれるし、兄貴とは違って知的な野生を感じさせる二枚目な人だ。
当然女の人にもてるらしく、バレンタインとかは凄いことになる、とは健作の弁だ。
美樹さんが料理に目覚めたのは、まあ、そんなこんなで危機感を感じたから、らしい(これも健作情報だ)。
でも、僕は。
なんかこう。
明さんの中から得体の知れないナニかが這い出してくるような。
上手く言えないんだけど、そんな印象を受けるんだ。
気のせいなんだろうけど。
おっと、健作達がそんないつものじゃれ合いをしている内に、健作の家に到着した。
相変わらずでっかいね、この家も。
「牧村」と彫られている表札も、高そうな大理石だし。
「「ただいま〜。」」
「おじゃましまーす、…!?」
玄関を開けて家の中に入った途端に、ヒヤリ、とするモノを感じた。
辺りを見回したけど、何にもない。
「?、なにやってんだよ、シロー。はやく上がれよ。」
健作が怪訝そうな顔で僕を見ていた。
気のせいだったかな?
「ああ、今行く。」
そう言って、僕は靴を脱いで健作の方へ向かった。



その時の僕は、知らなかったんだ。
地獄の扉をくぐってしまったって事を。


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