マジンカイザー -光輝たる魔神(かみ)- (3) HARUMAKI |
「戦慄」
「・・・で、緊急事態ってなんだい、ジュンさん。」
科学要塞研究所の会議室に移動し、一息ついたところで甲児は切り出した。
「まずは、この写真を見て。」
壁の一角が割れ、スクリーンが現われる。映し出される、スライド。
「こ、こいつは?!」
「・・・嘘、でしょ・・・」
「おっひょ〜ん!!」
途端に、凍り付く室内。
スライドには、無残に破壊されたロボットが写っていた。
そして、それは彼らにとって見慣れたものだったのである。
「グレート!?」
そう。原形を留めていないが、どう見ても、それはグレートとしか見えない機体であった。
驚愕に、頭が真っ白になる甲児達。
しかし、甲児は、すぐに違和感を感じた。
なにか、違う。
それに、鉄也が、ぴんぴんしている?
「鉄也さん、あれは本物のグレートなのか?まさか、ミケーネ製の偽者とか・・・。」
鉄也は、さすがだな、という風に口元をゆるめたが、すぐに真顔になった。
「いや、甲児君。あれは、偽者じゃない。量産型グレートだ。」
「なっ!!・・・量産型!?」
再び驚愕に包まれる室内。
「詳しくは、私から説明するわね。」
ジュンが後を受けた。
要約すると、次の様になる。
ミケーネ戦後、組織のトップを失った科学要塞研究所は、その立直しに奔走していた。
幸い、研究面では、三博士が出向という形でサポートしてくれることにより、なんとか目処が立った。
問題は、戦闘面である。
科学要塞研究所は、国防を目的として、政府から予算を得ている。
そのため、ベガ星連合との戦闘時にも、何らかの対策を迫られていた。事実、ジュンもビューナスAで、政府施設に侵攻してきた円盤機の迎撃を行っている。
グレートも、Zと同様に、大気圏外の戦闘は基本的に想定されていない。だが、絶対防衛圏を設定し、迎撃に用途を限定すれば、非常に強力な戦力になることは、明白である。
しかし、グレートの操縦者たる鉄也は、この時まだ重態であった。替りのパイロットを、といっても、長年の厳しい訓練を耐えてきた鉄也だからこそグレートの性能を引き出せたのであって、おいそれとはいるはずがない。
当時、実質的なリーダーであったジュンは一つの決断を下す。
グレートの性能を落とし、それなりのパイロットであれば扱えるようにすることを。
そして。
落ちた性能を、数でカバーする。
すなわち、グレートの量産化であった。
「・・・でも、結局ベガ星との戦いには、ほとんど間に合わなかったんだけどね。」
苦笑しながら、ジュンは説明を終えた。
「・・・ジュンさん、その、量産型って、どれくらいの性能なんだい?」
複雑な顔をしながら、甲児が尋ねた。
グレートは、いわば父の形見である。それが、知らないところで量産されていたのだから、事情は分かっても、あまり面白い気はしない。
さらに、それが、無残に破壊されていたのだから、なおさらである。
「ごめんなさい、甲児君。本当なら、あなたに一番先に相談しなきゃいけなかったんだけど、あなたは、あなたの戦いで忙しかったから、こっちの事で手を煩わせたくなかったの。」
ジュンは、甲児のそんな気持ちを読み取り、申し訳なさそうに謝った。
「い、いやっ、そんなつもりじゃ…、ただ、その…」
途端に慌てる甲児。真っ直ぐな気性の彼は、こんな風に謝られる事に弱い。
「ふふ・・、相変わらずね、そういうとこ。そうね、量産型は装甲には超合金Zを使っているわ。NZは大量生産には向かないからね。でも、精製の技術が上がってるから、初期のZからすると、比較にならない性能になってるわ。光子炉もややパワーダウンさせてあって、サンダーブレイクは使えないけど、他の武器は大体グレートと同じよ。」
「つまり、ヘルと戦ってた頃のマジンガーZよりは、性能が上って事?」
甲児が言いにくい事を、さやかはさらりと言ってのけた。甲児が恨めしそうに睨んだのだが、気が付かない。さやかは、意識せずに相手の弱いところを的確につくという、困った才能がある。悪気は全くないのだから、なお質が悪い。
二人のそんな様子に、心の中で苦笑して、ジュンは言った。
「そうね。総合的に見て、倍以上の戦闘能力差があるでしょうね。量産型って言っても、そんなに簡単な構造じゃないんで、こっちも必死に作業したんだけど、なんとか4機ができたのは、ベガ星との終戦直前位だったの。」
そこまで黙って話を聞いていた鉄也が口を開いた。
「丁度、量産機が組み立てられた頃、俺は意識が戻った。・・・その間、ジュンには、迷惑を掛けたと思っている。すまなかったな、ジュン。」
突然、鉄也に礼を言われ、目をパチクリさせるジュン。
言葉が、沁みてくるにしたがって、堪えきれずに涙をあふれさせてしまった。
「いいのよ、鉄也。私とあなたはパートナーでしょ?苦しい時は助け合うのが、パートナーよ。」
「ジュン・・・。」
見詰め合う、二人。
思わず、もらい泣きしてしまう、さやか。甲児も、洟を啜り上げている。
しかし、非常に面白くない人間もいるわけで。
「な〜に、見詰め合ってるのよ、ふたりとも!まだ説明は終わってないんだわさ!」
つい、大声を上げてしまった、切ない男心の、ボスであった。
「っと、悪い、ボス。」
バツの悪そうに苦笑する鉄也。
「先を、続けよう。パイロット候補生は空自の協力を得て選出して、俺が鍛えた。俺自身のリハビリを兼ねてね。だが、こっちのほうも、ものになろうかといった時に、ベガ星との戦闘は終結した。戦後、国からの予算も打ち切られそうになって困っていたんだが、そんな時、国連の方から打診があったのさ。」
「国連?」
予想もしない言葉に、怪訝そうな表情を浮かべる甲児一行。
「ああ、知っての通り、ベガ星の連中は地球から目を奪うために、人工衛星を全部破壊した。そのため、地球規模での監視体制は破綻している。そこを狙って、国の実権を奪おうと活動を始めた連中があちこちで出てきた。」
「ひどい・・・。今はみんなで協力しなきゃいけない時なのに!」
憤然とするさやか。
(甲児の苦労は、私たちの苦悩は、鉄也さんの悲しみは、なんだったの!?)
おそらく、甲児や、ボスも同じ気持ちであろう。
と、
「それが、変わる事のない人間のエゴなのかも知れないがね。」
ややシニカルに鉄也が言い放つ。
鼻白む甲児達。
「・・・すまん、ちょっと言い過ぎた。」
やや苦い顔をしながら、鉄也は謝った。
そんな鉄也にジュンは、気ぜわしげな視線を送った。
幼少時の体験から、鉄也は人間不信ぎみである。ジュンも似たような境遇であるが、鉄也ほどは、虚無感にさい悩まされてはいない。最近では、少しは軽減したようではあるが、鉄也の苦悩は続いていた。いつか、自分がその心を癒してあげられるのだろうか…。心を痛めるジュンであった。
「…鉄也、先を続けましょう。」
「・・・すまん、ジュン。まあ、国連にしても放っておく訳にもいかないんで、介入に乗り出したが、あちらさんも現状ではまともな戦力がない。そこで、科学要塞研究所に、抑止力としてのグレートを求めてきたというわけさ。」
一息つく、鉄也。ふ、と視線を天井に泳がす。
「・・・俺は、渡りに船と思った。経験の少ない連中には、良い実戦経験となる。それに、ミケーネの情報をつかむためにも、世界に散らばせた方がいい、と。」
声音に、後悔の影が、差した。
「スライドに写っているのは、東アジアの小国に派遣した機体だ。そこでは、国連軍が壊滅的打撃を受けたと言う。だから、パイロットは空自時代に実戦を経験している奴を送ったよ。しかし・・・派遣後数日で連絡が途絶えた。その後、捜索隊が発見した時は、この状態だったんだ。」
スライドを進める鉄也。次に写っていたのは、残骸の拡大写真である。
「!!、爪・・・いや、牙の跡?」
そこには、確かに動物が噛み千切ったような跡が記されていた。だが、サイズが大きすぎる。写真から推測すると、体長20mは優に越えている事になる。第一、超合金Zを噛み千切れる生物など、地球上には存在しない。いるとすれば。
「ミケーネの、戦闘獣・・・。」
戦火、いまだ止まず。