マジンカイザー 
-光輝たる魔神(かみ)- (4)

HARUMAKI

 

「新進」



「こーしちゃ、いられねぇ!何してんだよ、鉄也さん、行こうぜ、そこへ!」
スライドが終わった途端、甲児は腰を浮かして行動に移る体勢になっていた。しかし、鉄也もジュンも、難しい顔をしたまま微動だにしない。
「…甲児くん、残念ながら、今は動けん。」
苦渋を飲んだような表情で鉄也が答えた。
意外な鉄也の台詞に、思わず詰め寄る甲児。
「何故だ?どうしてなんだよ、鉄也さん!!」
「小国といっても、立派な独立国だ。国際社会の承認を得ずに勝手に動けば、我々はテロ集団とみなされてしまう。」
静かに、諭すように言う鉄也。
「しかし・・・!!」
なおも言い募ろうとする甲児は、鉄也の拳が、関節が白ばむほど握り締められているのを見て、はっとした。
鉄也の方が悔しいのだ。
ミケーネとの決着は、自分がつける。その決意は固い。
しかし、今の彼は組織のリーダーである。その彼の行動は、組織の人間全体に影響を及ぼす。
以前は、自分の意地で突っ走っていた。
それが、最も敬愛する人を失う最悪の結果となってしまった。
二度とあの思いを味わうわけにはいかない。
そのためにも、決して、軽軽に動くわけにはいかないのだ。
(・・・やっぱ、まだまだ未熟だよな、俺は)
その無言のメッセージを感じ、甲児は、自分の思慮の浅さを嘆息した。
と、こういう場の雰囲気に敏感なジュンが、さりげなく助け船を出してきた。
「動けない理由は他にもあるのよ。そっちもZを改修してるみたいだけど、こちらもグレートの改修中なの。」
助かる、という風にジュンに目線をやり、鉄也が後を受ける。
「多分そちらもそうだと思うが、グレンダイザーとか言ったか、あの機体から得られたデータからグレートのパワーアップを行ってるんだ。」
「えっ、じゃあ、やっぱりフレームから見直しを行ってるんですか?」
(それじゃあ、時間が結構かかるけど…?)
さやかは、言外にそんな疑問を含ませながら、尋ねた。
「いや、グレートは超高層圏での活動も視野に入れて設計されていたから、そんなに大幅な改修は必要はなかったよ。けれど、まだ完全には終わっていないんだ。ビューナスも改修を行っているところさ。」
「へ〜、さすがグレートですね。」
と、無邪気に感心するさやか。どーせZは凄くありませんよ、とジト目で甲児が睨んでいるのには、気がつかないようである。
「そーすっと、しばらくは待ちの姿勢ってことになるわね。どーもそういうのって性に合わないんだわさ。」
‥‥ボス、言ってることは正しいが、お前が言うセリフか!?
心の中で、一斉につっこむ4人であった。
苦笑しながら、一番の常識人(苦労人とも言う)であるジュンが口を開いた。
「まぁ、そういうことになるわね。でも、今までのことくらいなら通信で済ませても良かったんだけど、彼等とも行動を共にすることが多くなるでしょうから、その紹介もしとこうと思ってね。わざわざこっちに来てもらったの。」
「彼等?」
「ええ、量産型のパイロットたちよ。」
ああ、と、甲児達は納得の表情を浮かべた。当たり前だが、量産型とはいえマジンガーシリーズなのだから操縦者が必要である。そう、理解はできるが、自分や鉄也以外のマジンガーのパイロットというのは、想像しにくいと言うのが正直なところだ。
どんな人間が選ばれたのか?
「…私よ。彼等を会議室へ寄越して。」
インターフォンに告げるジュン。
やがて、ドアがノックされた。
「入って。」
ジュンの声と共にドアが開き、3人が続けて入ってきた。甲児達とそんなに年は変わらない。と、室内に甲児一行を認め、驚きの表情を浮かべた。
甲児達も、メンバーの顔ぶれを見て、軽い驚きの表情を見せた。…訂正。甲児とボスは、鼻の下を伸ばした。最も、すぐに、甲児は尻を抓られて真顔に戻ったが。
3人の中に女性が一人混ざっていたのである。
ジュンが、新顔達に着席を促す。
「あなた達、彼等の顔くらいはニュースで見たことあるわよね。光子力研究所のマジンガーチームよ。」
「兜 甲児だ。よろしくな。」
「弓 さやかよ。よろしくお願いね。」
「ボスだわよん。」
簡潔に挨拶をする、甲児達。何しろ、知らない者の方が少ないくらいの有名人達だ。それに、堅苦しいのは彼等の性に合わない。
有名人にあって緊張していた3人も、この気安げな挨拶に、やや解れたようである。
「じゃあ、一人ずつ自己紹介を簡単にしていって。」
「はい。呉石 臣人(くれいし おみと)、22歳です。尊敬する先輩方とお会いできて、光栄です。」
ジュンの催促に、まず先陣を切って挨拶をしたのは、彫りの深い色白のマスクに、切れ長のやや青みがかった瞳、引き締まった長身の痩躯という、文句なく二枚目の若者だった。弁舌もさわやかで、声音にも深みがある。短く整えられた髪が唯一それらしいが、全体としてパイロットらしからぬ美形といえよう。
だが、甲児は反発を感じていた。
別に、二枚目だから、と言うわけではない。目と、目があったときに。
(どうも、気にくわねぇ。まるで、見下すような冷たい目をしてやがる。)
取り繕った表面とは違う、冷たい本性を見たような気がしたのだ。
決して、さやかが臣人の顔にちょっと見とれていたなんてことは、関係していない。
「伊達 竜生(だて たつお)、21歳です!!リュウセイって呼んでください!自分は、甲児さんの活躍にあこがれて空自に入隊しました。こうして選ばれた事には、凄く感激しています!!」
と、やけに力みまくって次の青年が挨拶をした。バックに炎でも背負いそうな勢いである。甲児くらいの身長か。やはり、鍛えられた体をしていた。顔は、臣人に比べたら可哀相だが、正直ぱっとはしない。だが、少年がそのまま大人になったような真っ直ぐな眼差しと太い眉、やや低い鼻、悪戯っ子のような口元、と、不思議に魅力のある顔であった。
「俺の方も、甲児って呼び捨てでいいぜ、リュウセイ。」
「俺っちも、ボスって呼んでちょーだい。」
なんだか、シンパシーを感じる甲児とボスである。
「は、初めまして。鈴堂 綾音(りんどう あやね)、21歳です。」
やや、舌足らずな口調で、緊張気味に最後に口を開いたのは、パイロットとはちょっと信じられない女性であった。別に女性だから、ではない。ひと言で言うと。ちっちゃ可愛いのである。
身長は、150pに届くか、届かないか。肩くらいで切りそろえられた艶やかな茶髪に、アイドル顔負けのルックス。非常に控えめなプロポーションは、別な劣情を催させそうで、ある意味危険でさえ、ある。
「わ、私も尊敬してました!」
ひたむきな視線で甲児達を見る綾音。
そーだろ、とまた鼻の下を伸ばす甲児。けっ、と横を向くボス。むっ、と甲児を睨むさやか。
相変わらずの光景であった。…次の綾音のセリフまでは。
「ボスさんの活躍を。」
一瞬の、間。
「嘘だろ〜〜〜!!」
「う・・そ☆」
「うっそぉお〜〜ん!?」
…自分まで驚いてどうする、ボス。
「ほ、本当です!あのボロットで機械獣や戦闘獣と戦って生き残ってきたなんて、凄いことだと思います!」
(…さやか、あれって、褒めてんのかな?)
(…あの表情を見る限りだと、真剣に褒めてると思うんだけど?)
綾音の天然な発言に、思わずひそひそ話をする2人。
ボスは。
まだ信じられずに魂が抜けていた。
綾音は。
そんなボスを憧憬のまなざしで見つめていた。
男の中の男、ボス。
遅い春が巡ってくるような予感であった。

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