マジンカイザー 
-光輝たる魔神(かみ)- (5−1

HARUMAKI

 

「実力−前編−」



「ボスさんを、尊敬してるんです。」
綾音の言葉に、衝撃覚めやらぬ甲児一行。
その様子に、苦笑をかみ殺しながら、ジュンは新人達の挨拶を引き取った。
「最初に聞いた時は、私たちもびっくりしたけどね。でも、綾音はこう見えても結構凄いのよ。シミュレーターではトップの操縦技術なんだから。」
その説明に、臣人の眉がぴくっと反応する。誰も気が付かなかったが。
へぇ、と感心した風に甲児達は綾音を見た。
途端に真っ赤になって慌てる綾音。
「はわわわっ、そ、そんな事ないです!わ、私なんて、まだまだです!!」
ジュンは、そんな綾音に優しく微笑んだ。
「そうね、まだ基礎体力がついてないから、実戦訓練では、今一つといったところかしら。総合的には、臣人がリードしてるわね。竜生は、まだ要努力と言ったところね。」
「…ま、ボロットを尊敬しているような綾音君に負けるわけにはいきませんからね。」
冗談めかした口調でいった臣人だが、目は笑ってはいない。
この臣人のセリフに、当然ボスが噛みついた。
「ちょっと、どういう意味よ!俺っちのボロットに文句でもあるってぇの!」
「ああ、これは失礼。我々が操縦するのはグレートタイプですので、ボロットでは参考にならないと言う意味です。機体のタイプが全然違いますからね。」
フッと口の端に笑みを浮かべて理路整然と述べる臣人。
なにげに嫌みを言われている気はするが、一応理屈は通っているので、反論の隙がない。ぶつぶつと口の中で文句を言いつつ、ボスは不承不承引き下がった。
(…やっぱり苦手だぜ、コイツ!)
このやり取りで、甲児の臣人に対する印象は最悪のものとなった。さすがに、さやかも眉をひそめている。
と、これまで発言を控えていた鉄也が、厳しい顔つきで口を開いた。
「お前達にここに来てもらったのは、甲児君達との顔合わせと言うこともあるが、、もう一つある。」
言葉を切り、スライドを操作する。映し出される、破壊された量産型グレート。
先程の甲児達と同様に、息をのむ三人。
「こ、これって、佐久社(さくもり)さんの…?」
「ま、まさか!?晴蒔(はるまき)さんが!」
綾音と竜生は、あまりの衝撃に顔色を失っていた。対して臣人は、衝撃は受けたようだが、動揺は見られない。
「そうだ。某国に派遣した佐久社の機体だ。」
鉄也の声も重い。
「晴蒔さんは、晴蒔さんはどうなったんですか!」
声を絞り出す竜生。
「…コクピットには佐久杜の姿はなかった。」
「じゃ、じゃあ、生きているという可能性も…」
勢い込む竜生だが、
「いや。操縦席には大量の出血が残っていた。状況から見て、生存しているとは考えにくい。」
との鉄也の言葉に、声を失った。
と、今まで黙っていた臣人が口を開いた。
「隊長、やはり、晴蒔さんではなく、私が行くべきだったのではないでしょうか?」
「臣人!てめえ、こんな時に、なにを言いやがる!」
激昂した竜生が臣人の襟首を掴み挙げるが、臣人の冷静な表情は変わらない。いや、竜生を見下ろす目は、軽蔑の視線か。
「あいかわらず、脊髄反射だけで生きているような奴だな。自分はただ、訓練結果のトップの成績の者が最初に実戦にでるべきだった、と言っただけだ。佐久杜さんは、確かに実戦経験はあったかもしれないが、訓練では一度も自分に勝ったことはない。実力的に勝る方が出撃した方が、生存の確率が上がるはずだ。」
「…!!俺は、そんな事を言ってるんじゃねぇ!晴蒔さんは、もう還ってこねえってのにっ!!」
拳を振り上げる、竜生。と、いつの間に来たのか、鉄也がその手を掴む。
「2人とも、いい加減にしろ。…呉石、何故お前ではなく、佐久杜が選ばれたのか、まだ分からないのか?」
静かに、しかし、厳しい視線を臣人に向ける、鉄也。臣人は傲然とその視線を受け止めつつ、答えた。
「はい、隊長。自分の方が佐久杜さんよりも優れていたと、今でも思っています。」
(…あんにゃろ、鉄也さんに対して、なんて口ききやがる!)
チーム内のこと、と、自分を押さえて黙っていた甲児であったが、流石にこの臣人のセリフには、切れた。臣人に対し、一言言ってやる、と立上りかけたが、その前に鉄也が口を開いた。
「臣人、お前には、まだ足りない物がある。」
「!…分かりません。何でしょうか。」
屈辱を受けた、と言わんばかりに鉄也を強く睨み付ける臣人。と、鉄也はある人物を指さす。
「それは、あいつが教えてくれるだろう。」
その先には――
「俺!?」
間抜け顔で自分を指さす、ボスが、いた。

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