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剣鉄也、新たなる戦場へ! (3)

シローK

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更に歩を進めると公園の全景が見えて来る。
声が聞こえた子供達の元気に駆け回る姿がある。明るい春の日差しに子供達の表情も皆、生き生きしている。ジャングルジムや滑り台、ブランコと言った遊具はもちろんかんなと同じ年であろう子供も幾人かが砂場で遊んでいる。
「ほう、中々の規模じゃないか!」偶に訪れる都心の緑地化計画の一環で創られた申し訳無い程度の公園よりずっとずっと立派である。
「此処なら子供達も存分に走り回れるであろう、造成地に創っただけの事はあるものだな。」鉄也は此処に新居を構えた事を喜んだ。
鉄也とかんなが公園に入ると広場の一角に藤棚が見えた。その下に木のテーブルと椅子が備え付けてあった。そこには今此処で遊んでいる子供達の母親達であろうか数人の女性の姿も見える。
その女性達の姿を見つけた鉄也は「ほう、この辺りは田舎だと思ってはいたが中々どうして、随分と国際色、豊かじゃないか、これならジュンもヘンなコンプレックスに悩まされる事もないだろう。良かった。」金や茶の髪を春の風になびかせながら談笑する遠めに見た彼女達は異国の人の様だった。
だが二人が近づいて行くと聞こえて来るのは流暢な日本語を使った会話ばかりである。
「??上手いものだな!」まだ事の真相が判らない鉄也は彼女達の使う日本語があまりに上手なので他国から来た人達が覚えた日本語とは思えなくなって行った。
更に近づいて行くとそれがどう言うモノなのかが判った。「うっ、日本人!」思わず息を呑む鉄也。
そう、彼女達はただ単に髪を染めているだけである。
金色やオレンジがかった茶色、ジュンに似た緑っぽい黒髪等、非常にカラフルである。
普段の鉄也は髪を染めた女性等とは縁が無い。いや、正確に言えばそんな事に興味の無い鉄也にしてみれば研究所の女性が髪を染めていても気付かないだけである。彼が知っているのはせいぜいジュンのやや緑の入った髪やさやかの茶ともとれる黒髪である。
鉄也にとって「金髪イコール欧米人」である。しかも一度に数人の女性が金色の髪をしている所なんて国際フォーラム等に出席した際の経験しかない。
「い、いったいどう言う事だ!」残念ながら鉄也には理解出来なかった。
そこに居た母親の一人が目を丸くしながら歩く鉄也とかんなに気付く。
「あら、かんなちゃんじゃない!」やさしく声をかけてくれる。すかさず社交家の娘はご挨拶!
「は〜い、ち〜あ。」ぺこりと頭を下げる。「あら、かんなちゃんはいつもおりこうさんね〜。」
「かんなちゃんはいいこね〜。」気付いた他の母親達も次々に声を掛けてくれる。
どうやらかんなはジュンのしつけもしっかりしているのだろう、他の子達の母親にも可愛がられている様だ。すると声を掛けてくれた親の一人が「あら?かんなちゃん、今日はママと一緒じゃないの?」かんなに問う。娘は答える「パ〜パ、いっしょ〜。」
突然、バッと母親達の視線が鉄也に集まる!
「ぐうっ」一瞬たじろぐ。そう、鉄也はこんなにいっぺんに女性の視線を浴びた事など無いに等しい。
ジュンとの会話が思い出される。「いい?鉄也。もし鉄也がかんなのお友達の親御さんに会ったらちゃんとご挨拶してよ。鉄也がしっかりしてくれなきゃ恥ずかしく嫌な思いをするのはかんななのよ、いい?」「ああ、解かってるよ、うるさいなあ」「もう、ちゃんとまじめに聞いてよ。鉄也はぶっきらぼうで無愛想だから心配しているのよ。」「大丈夫だよ、俺だってその位、ちゃんとできるサ」「もう、ホントに?」「ああ、その時が来たら大丈夫だ。」そう、その時が来たのだ。
(うう、マズイ、なんでこんなに緊張するんだ。だ、だが此処でしっかりやらないと後でかんなやジュンになんて言われるか判ったモンじゃない。まじめに考えていなかっただけに困ったゾ。)
そよ風が急を告げる春の公園。鉄也ピンチ!あざ笑うかの様に蝶が舞う!
これまで極度の緊張に包まれた経験は鉄也にとっては目面しい事ではない。
だが今回のこの様相はなんだ?勝手が違う!ミケーネ帝国との戦闘や高度な技術を要する研究とはまるで違ったプレッシャーを感じる。だが、だが!可愛い娘を思えばそんな事言っていられはしない。
勇気?を振り絞って鉄也は声を上げる。「じ、自分は、つ・つる・・」「剣、鉄也と言います!い、何時も娘とジュ・・い、いやにょ・・い、いや。家内がお世話になってるますです。ど、どぞ宜しく!」
やっとの思いの鉄也。しかし直立不動の姿勢で発せられた声は上ずり引っくり返っている。
あまりな姿の鉄也を見た母親達は一瞬の沈黙。が、一人がたまらず「・・・プッ」っと吹きだす。
もうその後は堰を切った様に怒涛の笑いの渦!
「キャハハハッ」「ヒイヒイ」「イヤーーーッツ」「おもしろ〜〜い!」「ちょ、ちょっとアンタ、しつれ・ププッ」「あなただって、ククッ」もう散々な・・・である。
「く、くそッ、お、面白くなんかあるものか!」今まで間違っても女性に「面白い」等と言われた事のない鉄也であったが彼女達はそんな鉄也の気持ち等お構い無しでひとしきり笑い続けた。
「まあ、まあ、剣さんのご主人様でいらしたのね、ククッ、」笑いはまだ止まらない。
「いえいえこちらこそ奥様にはお世話になっていますのよ。」「さあ、そんな所にいらっしゃらずにこちらへ。プッ」「さあ、どうぞ、どうぞ。クスクス」
もうすっかり気落ちした鉄也は言われるがままおずおずと近づいた。
そんな父親を見限ったのかそれともある意味、安心したのか娘は彼女本来の目的の為にお友達の元へと行ってしまった。
唯一の味方を失った鉄也は孤軍奮闘せねばならない。だが彼女達の本領発揮はまさにこれから。
鉄也の運命は風前の灯火。この後、彼女達の洗礼を受ける羽目となる。
まずはこんな所からそれは始まった。
「剣さん、今日は奥様、いらっしゃらないのかしら?」「は、はあ、家内はちょっと具合が悪くて・・。」
「まあ、それはいけませんね、それでご主人がかんなちゃんとご一緒なのね。」「え、ええそうなんです。」
「ご主人、今日はお休みでいらっしゃるの?」「は、はい、えっと、夜勤明けでして。」「まあ、大変でいらっしゃるのね〜。」すると他の者達が口を挟む。「そ〜よ、剣さんのご主人はなんとか研究所にお勤めなんですもの、ね〜」「か、科学要塞研究所です。」「そうそう、とっても大変なお仕事なんですよね〜。」私達はちゃんと知っているんだからといった感じ。
「そう、それに剣さんのご主人と言えば昔、アレでしょう?」「そう、なんて言ったっけ?なんとか?てロボットに乗ってマーだかメーだかのなんとか帝国と戦ってたんですよね〜。」
「ミケーネ帝国です。」生真面目に答える鉄也、だがそれも。「ロボット、ってなんだっけ?エッと〜??
ボロなんとかじゃなくって〜??」(おいおい、ボスボロットと一緒にしないでくれよ。)鉄也は悲しくなって来た。「ん〜とね〜、グレープとかクレープとかだっけ?クレープマーガリン!」「え〜〜ッ食べ物じゃあるまいし、第一、それじゃキモイじゃん、違うよ〜〜。」もう鉄也は置いてけ堀で会話は弾む。
「え〜ッと、え〜ッと、そう、ナンとかゼット〜ッ」「そうそう、それよそれ!!」「えッとね、まがじんゼット〜ッ。」「そうですよね〜剣さん?」やっと答えを導き出して得意満面で鉄也に問いただす。
鉄也や甲児達が命懸けで戦い抜いた先の大戦も彼女達にとってはもはや過去の遺物である。
(うう、甲児君、どうやら俺達の時代は終わった様だな、ううッ)それでも鉄也は答える。「はあ、まあ、そんなモノです。」(泣)鉄也を知る者にしてみればそれは上出来の答えだった。が・・・(あれ?チョッと違うのかな?)との表情も浮かべた彼女ではあったが「ね〜でしょう?」と皆に自慢。
上天気の中、吹き荒れる春の嵐、鉄也の運命を弄ぶかの様に陽炎が揺らめく。
此処は春の公園!みんなの公園。
会話は弾む!先の大戦の時、鉄也やジュンがいかにして戦って来たか、彼女達の質問は後を絶たない。
そしてジュンと如何様にしての結婚であったかまでを聞き出すと、「まあ、それじゃあ剣さんのご主人様とジュンさんは言って見れば幼馴染なのね〜?」まあ、確かにそうである、がそんな生易しく可愛らしいものではない。幼少の頃の思い出と言ったら、来る日も来る日も戦闘訓練の毎日である。戦闘でのパートナー。そんな仲である。しかし今そんな事を彼女達に説明してもわかろうハズも無く「ワ〜、それっていいわ〜、カワイイーー!!」「ネ〜うらやましいよね〜」とそんな調子である。
鉄也は思う!(参ったな、まだ来たばかりだと言うのに何時までこんな話をしていなくちゃならないんだ。)(このまま此処にいたら何を言わされるか解ったものじゃないぞ)
だがチラッと娘をみると楽しそうに遊んでいる。大体此処へ来る事になったのも自分の失敗からなのだ。
ジュンには普段から愛想を良くしろと言われているし、そう考えると此処で帰る訳には行かない。
すっかりと気落ちした鉄也は視線を泳がす。すると鉄也達が座っている藤棚から数メートル程の所に設置されている鉄棒によじ登った子がバランスを崩しグラグラとしている。「ムッ、い、いかん!」鉄也は悟る!一瞬の内にも戦士に戻る鉄也、鍛え上げられた精神と身体は瞬時の反応を見せダッシュ!
今まさに鉄棒の上から落下しそうな男の子の元へ!
ズザザザザーーーーッツ!!ヘッドスライディングをしながらまっ逆さまに落ちてくる子供を間一髪抱え上げる!辺りには砂埃が巻き上がり視界を遮った。
そよ風が巻き上がった砂埃を吹き払うと鉄也は受け止めた子供に目をやる。何処にも怪我は無いようだ。
何が自分に起こったのか解からない子供はきょとんとした目で鉄也を見返す。
その顔を確認すると鉄也もこの子が無傷である事を確認出来た。「ふう、良かった、どうやら間に合った様だな。」子供を抱えたまま起き上がった鉄也は男の子に「さあ、もう大丈夫だぞ、また遊んでおいで。」と告げる。何がどうなったかが理解出来ないままにもその子はコクリとうなずくとまた遊びに行ってしまった。が、ここで鉄也はハッとする。子供は大丈夫だったもののこの子の母親は?きっと我が子が無事であるか心配であろう。早く無事を告げて安心させて上げなくては。鉄也は振り向いて「大丈夫、お子さんは無事です、ナンともありませんよ。」我が子の安否に恐怖しているかもしれない母親に告げる・・・ハズだったのだが? 青ざめた顔?恐怖した顔?言葉を失った顔?無い!そんなもの何処にもありゃしない。今、彼女達の視線は両の手に持たれた小さなボタンのいっぱい付いた機会に注ぎこまれその両手の親指を使って目にも止まらぬ速さであまりに器用に幾つものボタンを押し続けている。
一時の間を置いて鉄也にも理解出来た。「け、携帯電話?メ、メールを打っているのか!」
そう、彼女達はついたった今までお喋りに夢中になっていたのに今は一人一人が自分の世界に浸っている。それにしても!鉄也には理解出来なかった。「な、なんなのだ?いったいこいつらはどういった感覚をしているんだ?」その光景を呆然と立ち尽くして眺める鉄也。

するとメールを打ち終えた彼女達は視線を上げ鉄也を見つけて「あら、剣さん、子供達と一緒に遊んでいて下さったの?そんなに泥だらけになっちゃって、ウフッ、お若いのね〜〜!」「まあ、やっぱり男の方がいらっしゃると頼もしくていいわね〜〜。」「そ〜よ、剣さんのご主人はうちらの旦那とは違うもの、年なんか取っていられないわよ。」「当〜然よね〜〜、だってジュンさんがあんなに素適なナイスヴァディーなんだもの〜〜。」「そ〜だよね〜、前に新聞でみた盗賊団だかを相手に戦っているキューティーハニーばりのナイスヴァディーだもんネ〜〜」「そっちが羨ましいよ〜〜」「年なんかとっていられないよ〜、ご主人幸せよね〜〜」
いったいどうしたらこんな展開になるのか?鉄也の思考は半ば錯乱状態。

 

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