Diary

No.186

mio
ケインの話7話目。ここで一旦小休止。
とんでもない所で中断しちゃってすみません💦

--Uが終わったそのあとで おまけ--
『君が笑ってくれるなら』(7)

 記憶が戻るということは、過去の自分と向き合うことでもあった。
 研究所に戻ったケインは、蘇った記憶を洗いざらいマリアとデューク王子、そして自分を助けてくれた地球の人達に打ち明けた。
 自分が、王家に忠誠を誓うフリード武官の家に生まれた人間だということ。
 あの日はシリウスと会う約束をしていて、王都の待ち合わせ場所に向かう途中だったこと。
 フリード王の警護にあたっていた父とも、王妃に招かれて王宮に上がっていた母とも連絡が取れず、二人とも恐らく亡くなったのだろうということ。
 王都を逃げまどっていた時に、混乱の中、姉のナイーダと離れ離れになったシリウスと出会い、彼の両親とも合流出来て共に地方に潜伏していたこと。
 シリウスが生きていると語った時の、デュークとマリアの表情の劇的な変化にケインは驚いた。やはり情報は2人のもとに正しく伝わってはいない。
 せめて自分の知る限りのことを伝えなければとケインは話し続ける。
 デュークが王と王妃を殺したという話を信じている者は多くないこと。ただ、直後の王都破壊のため、生き残った貴族も民衆も何を信じていいのかわからないまま、ベガ星の介入を許し、現在フリード星はベガに掌握されていること。バロン公爵やベガの手を逃れた者たちは現状を打破するために動いていること。
 マリアが捕らえられるという情報を得て、救出のために修道院に向かったら、マリアは自力で脱出し、シリウスと二人、遠ざかる円盤獣マリマリを見送ったと話した時には、マリアからシスターたちの安否を尋ねられた。
 いかにベガとはいえ、シスターたちには手出ししなかったことを伝えると、マリアは心底ほっとしたようだった。
 それから間もなく、ナイーダが地球にいるデュークに殺されたという噂が流れ、バロン公爵やシリウスの反対を押し切り、内部情報を探るためベガ軍に志願したこと。
 デュークの両親殺しと王都破壊、またグレンダイザーでの逃亡の情報を、ベガが印象操作をした上で作為的に周辺各星に流したことにより、フリード星は他星から忌避され軽蔑の対象にもなっていること。フリードの名誉を回復するためにベガ軍に志願するフリード星人は多く、ケインもまた変装し身分を隠し、ベガ軍に紛れ込んで情報を探るつもりだったこと。
 しかしベガの方が上手で、ケインの正体は暴かれてしまった。ケインが見習いながらもスターカーの騎士であり、グレンダイザーに搭乗できることはベガの上層部に知られていたのだ。
 スターカーの騎士はフリード王宮襲撃の際、カサドによってほぼ全滅させられていた。たとえグレンダイザーを奪っても操縦できる者がいなければ使いようがない。ベガはカサド以外にもグレンダイザーに搭乗出来る者を探していた。ケインはまんまとそこに飛び込んでしまったのだ。
 そしてケインはベガにより洗脳された。フリード星人だという過去を忘れさせられ、ベガ星の命令は絶対だという価値観を刷り込まれ、疑問を持つことも許されない人形のような兵士にさせられた。
 それからのことは思い出したことを後悔したくなることばかりだった。
 ベガの発表に疑問を持った、フリードと親交の深い星を攻撃し大勢の民を殺した。ベガに潜入し捕らわれたフリード星人を虐待させられたこともある。
 手が震えた。記憶を失っていた時とは違う。ケインははっきりとそのことを覚えていた。炎に包まれた町。逃げまどう人々を容赦なく攻撃した自分。ミサイルの発射ボタンをためらうことなく押したあの時の指の感触までもがまざまざと思い出される。
 そしてまた、ベガを探るために潜入した同胞に鞭をふるい、何の感慨を抱くこともなく彼らの命すら奪った自分。あの時の彼らの目。ケインをそれと認識して一度は輝いた目は、すぐに昏く伏せられた。諦めきったあの時の目は決してケインを責めていなかった。ケインがケインでなくなっていることに、彼らは気がついていたのだろう。
 手が震える。震えが止まらない。
 ケインは彼らを情け容赦なくいたぶり、そのうちの何人かは死に追いやった。
 ケインのこの手が彼らの命を奪った。
 脳裏に蘇る顔、顔、顔。
 その中にはケインに優しくしてくれた父の友人の顔もあった。
 いつも笑顔で声を掛けてくれた王宮の兵士の顔もあった。
 手の震えは止まらない。
 思い出したくない。けれど思い出さなくてはいけない。ケインは彼らの命に対する責任がある。
 たとえあの時のケインがベガに操られていたのだとしても、命を奪った事実は変わらない。
 だから。
「……もういいっっ!!もう何も言わなくていいからっっ!!」
「………っっ!」
 自分の震える手を誰かが握ってくれたことに気づいて視線を向けると、そこには涙を流しながらケインの手を握りしめるマリアの顔があった。
「……駄目だ! 僕の手は汚れてる…から…っっ!」
 あの頃とは違うのだ。たとえ自分の意思ではなかったとはいえ、血で汚れてしまった自分の手。こんな手ではもうマリアに触れられない。マリアに触れてもらう資格はない。
 ケインはマリアから自分の手を奪うように引き抜いた。マリアの手があっさりと離れていく。しかし。
「………!!」
 次の瞬間、ケインはマリアに強く抱き締められていた。
「ケインの手は汚れてなんかない。泣いてる私の頭を撫でてくれた時とおんなじ、優しい手だよ」
 ケインを抱き締めるマリアの腕も小さく震えている。
「だから……だから、そんなこと言わないで……」
 行き場をなくしていたケインの手が、宙をさまようように揺れる。
 その手を取ってマリアの背中に回してくれたのは誰だったか。
「………僕は………」
 その後は言葉が続かなかった。いつの間にかケインの目からは涙が流れ落ちていた。嗚咽を漏らすその背中をマリアの手が優しく撫でる。
 言葉もなくただただ涙を流し続けるケイン。
 いつしか室内には誰もいなくなり、夕日に染まった空に星が瞬くまで、マリアはただ無言でケインを抱きしめてくれていた。
たたむ

Powered by てがろぐ Ver 4.5.0.