カテゴリ「駄文」に属する投稿[10件]
2025.12.20 駄文
2025.12.19 駄文
2025.12.18 駄文
2025.12.16 駄文
2025.11.30 駄文
2025.10.22 駄文
2025.09.20 雑記,駄文
2025.05.11 駄文
2025.04.14 雑記,駄文
初期表示に戻る
Powered by てがろぐ Ver 4.5.0.
ここでしばらく休止…かと思ってたら、あと1本上げられる模様です。
また明日ー!
--Uが終わったそのあとで おまけ--
『君が笑ってくれるなら』(6)
「……ごめん、ケイン。囮を買って出たのは私なの。いつまでもベガの兵士がケインの周りにいるなんて我慢できなかったから」
戻った記憶を整理できず半ば呆然としたままのケインに、研究所に帰る車内でマリアが説明してくれた。
あの日大介が罠にかからなかったのも、マリアがグレンダイザーに乗っていたのも予知によるものだったこと。
あの後ベガ軍は撤退していったけれど、その後、研究所を探っている不審な人物がたびたび目撃されたこと。それがケインと一緒にいた兵士だと大介が気づいたこと。
あの日、罠にかかったふりをして工作部隊の兵士を倒し、降りしきる雪の中、グレンダイザーの近くまで戻ってきた大介は、グレンダイザーから攻撃されないだけの距離を取ってケインを見張っている兵士を目撃したらしい。ケインの自死を止めるのを優先したため、その時の兵士がどうしたかはわからないが、彼らがベガの命を受けて地球に残り、捕らわれたケインを抹殺しようとしていても不思議ではない。ケインはベガの情報を持っているのだから。
しかし彼らは巧妙で、なかなか捕らえることが出来なかった。
「暖かくなったらケインと一緒に外に出たいのに、襲われる心配しなきゃいけないなんて我慢できない」と言い出したのはマリアだった。
ケインを囮にするのは申し訳ないと思いつつ、ヒカルに特殊な防護壁を張ってもらい、防護用の素材で作った衣類を着ぶくれに見えるほど着込んでもらった。もちろんマリアのコートの下も同様の素材で作った服だ。
囮を言い出したのはマリアで、反対意見はあったものの、予知によって自分にもケインにも危険はないとマリア自身が強く主張したからこその決行だった。
それでも、兵士の光線銃がケインの腕を掠めてしまい、今ケインの二の腕はマリアの手によって包帯を巻かれている。落ち込んでいるのか、マリアの表情はひどく暗い。
「ごめんね、ケインが怪我するなんて思わなかった…」
「あー、それは俺が悪いんだよ。あいつら見失ったから。ごめんな、ケイン。怖い思いさせた上に痛い思いまでさせて」
運転席のミラーに映る甲児がそう言って頭を下げた。
「あいつらに気づかれたのは私たちのミスよ。本当にごめんなさい」
「マリアは悪くない」
甲児、さやか、ヒカルが続けてそう言って、大介が手を伸ばしてマリアの頭を撫でた。
マリアを包む暖かな空気はケインにも感じ取れた。マリアは愛されているんだなとケインは思った。あの王宮で、巫女姫としての能力しか見てくれない周囲の人間たちに癇癪を起していたマリアはここにはいない。遠い昔、自分の予知のせいで大事な友達をひどい目にあわせてしまったと泣くマリアを慰めたのは、肉親以外ではケインとシリウスの二人だけだった。でもここには大介…デューク以外にも、甲児、さやか、ヒカルがいる。宇門や研究所の人たちも。
記憶を失っている間に見たマリアの笑顔。それはケインとシリウスにとっては見慣れた安心しきった笑顔だった。この人たちもまたマリアにとって信頼できる人たちなのだ。そんな人たちが今、以前とはまた違った意味で厳しい状況にいるマリアのそばにいてくれるのだ。
「包帯巻くの上手ね、マリアちゃん」
「わたしもそう思う。お姫様なのにいろいろできて偉いと思う」
さやかとヒカルの二人がマリアを慰めようとしている気持ちが伝わってくる。そんな彼らがマリアを危険にさらすことを良しとするわけはない。
ケインは素直に頭を下げた。
「……すみません。さっきは取り乱してしまって…」
ケインが口を開いたとたん、その場が静かになった。助手席のさやか、後部座席の大介とヒカルの視線を感じる。顔を上げたケインは、ミラーの中の甲児と目が合った。
「じゃあ、思い出したんだな」
「はい。全部」
「体調が大丈夫なら、話してくれるかしら」
さやかの問いかけに頷く。
「皆さんのおかげで体は回復しています。記憶も…、まだ少し混乱はしていますがお話できると思います。いいえ、僕の話を聞いてください。王子にもマリアにも皆さんにも聞いて欲しいです」
笑みを見せる者、頷く者、ケインの肩を叩く者。
それきり車内は静かになった。
『ああ、そうだった……』
すべてを思い出したケインは心の中で呟いた。
自分は利用されたのだ。利用しようとして潜り込んだはずのベガに。
ぎゅっと手を握る。愚かだった自分を許せなかった。
その手にマリアの暖かい手が重ねられても、ケインの固く握られた拳はずっとわずかに震えていた。
たたむ