Diary

No.187, No.186, No.185, No.184, No.4件]

mio
クリスマスが近づいてきたので、昔出した本に載せた話を近々アップしたいと思います。
明日か明後日か…な?

更新予定

mio
ケインの話7話目。ここで一旦小休止。
とんでもない所で中断しちゃってすみません💦

--Uが終わったそのあとで おまけ--
『君が笑ってくれるなら』(7)

 記憶が戻るということは、過去の自分と向き合うことでもあった。
 研究所に戻ったケインは、蘇った記憶を洗いざらいマリアとデューク王子、そして自分を助けてくれた地球の人達に打ち明けた。
 自分が、王家に忠誠を誓うフリード武官の家に生まれた人間だということ。
 あの日はシリウスと会う約束をしていて、王都の待ち合わせ場所に向かう途中だったこと。
 フリード王の警護にあたっていた父とも、王妃に招かれて王宮に上がっていた母とも連絡が取れず、二人とも恐らく亡くなったのだろうということ。
 王都を逃げまどっていた時に、混乱の中、姉のナイーダと離れ離れになったシリウスと出会い、彼の両親とも合流出来て共に地方に潜伏していたこと。
 シリウスが生きていると語った時の、デュークとマリアの表情の劇的な変化にケインは驚いた。やはり情報は2人のもとに正しく伝わってはいない。
 せめて自分の知る限りのことを伝えなければとケインは話し続ける。
 デュークが王と王妃を殺したという話を信じている者は多くないこと。ただ、直後の王都破壊のため、生き残った貴族も民衆も何を信じていいのかわからないまま、ベガ星の介入を許し、現在フリード星はベガに掌握されていること。バロン公爵やベガの手を逃れた者たちは現状を打破するために動いていること。
 マリアが捕らえられるという情報を得て、救出のために修道院に向かったら、マリアは自力で脱出し、シリウスと二人、遠ざかる円盤獣マリマリを見送ったと話した時には、マリアからシスターたちの安否を尋ねられた。
 いかにベガとはいえ、シスターたちには手出ししなかったことを伝えると、マリアは心底ほっとしたようだった。
 それから間もなく、ナイーダが地球にいるデュークに殺されたという噂が流れ、バロン公爵やシリウスの反対を押し切り、内部情報を探るためベガ軍に志願したこと。
 デュークの両親殺しと王都破壊、またグレンダイザーでの逃亡の情報を、ベガが印象操作をした上で作為的に周辺各星に流したことにより、フリード星は他星から忌避され軽蔑の対象にもなっていること。フリードの名誉を回復するためにベガ軍に志願するフリード星人は多く、ケインもまた変装し身分を隠し、ベガ軍に紛れ込んで情報を探るつもりだったこと。
 しかしベガの方が上手で、ケインの正体は暴かれてしまった。ケインが見習いながらもスターカーの騎士であり、グレンダイザーに搭乗できることはベガの上層部に知られていたのだ。
 スターカーの騎士はフリード王宮襲撃の際、カサドによってほぼ全滅させられていた。たとえグレンダイザーを奪っても操縦できる者がいなければ使いようがない。ベガはカサド以外にもグレンダイザーに搭乗出来る者を探していた。ケインはまんまとそこに飛び込んでしまったのだ。
 そしてケインはベガにより洗脳された。フリード星人だという過去を忘れさせられ、ベガ星の命令は絶対だという価値観を刷り込まれ、疑問を持つことも許されない人形のような兵士にさせられた。
 それからのことは思い出したことを後悔したくなることばかりだった。
 ベガの発表に疑問を持った、フリードと親交の深い星を攻撃し大勢の民を殺した。ベガに潜入し捕らわれたフリード星人を虐待させられたこともある。
 手が震えた。記憶を失っていた時とは違う。ケインははっきりとそのことを覚えていた。炎に包まれた町。逃げまどう人々を容赦なく攻撃した自分。ミサイルの発射ボタンをためらうことなく押したあの時の指の感触までもがまざまざと思い出される。
 そしてまた、ベガを探るために潜入した同胞に鞭をふるい、何の感慨を抱くこともなく彼らの命すら奪った自分。あの時の彼らの目。ケインをそれと認識して一度は輝いた目は、すぐに昏く伏せられた。諦めきったあの時の目は決してケインを責めていなかった。ケインがケインでなくなっていることに、彼らは気がついていたのだろう。
 手が震える。震えが止まらない。
 ケインは彼らを情け容赦なくいたぶり、そのうちの何人かは死に追いやった。
 ケインのこの手が彼らの命を奪った。
 脳裏に蘇る顔、顔、顔。
 その中にはケインに優しくしてくれた父の友人の顔もあった。
 いつも笑顔で声を掛けてくれた王宮の兵士の顔もあった。
 手の震えは止まらない。
 思い出したくない。けれど思い出さなくてはいけない。ケインは彼らの命に対する責任がある。
 たとえあの時のケインがベガに操られていたのだとしても、命を奪った事実は変わらない。
 だから。
「……もういいっっ!!もう何も言わなくていいからっっ!!」
「………っっ!」
 自分の震える手を誰かが握ってくれたことに気づいて視線を向けると、そこには涙を流しながらケインの手を握りしめるマリアの顔があった。
「……駄目だ! 僕の手は汚れてる…から…っっ!」
 あの頃とは違うのだ。たとえ自分の意思ではなかったとはいえ、血で汚れてしまった自分の手。こんな手ではもうマリアに触れられない。マリアに触れてもらう資格はない。
 ケインはマリアから自分の手を奪うように引き抜いた。マリアの手があっさりと離れていく。しかし。
「………!!」
 次の瞬間、ケインはマリアに強く抱き締められていた。
「ケインの手は汚れてなんかない。泣いてる私の頭を撫でてくれた時とおんなじ、優しい手だよ」
 ケインを抱き締めるマリアの腕も小さく震えている。
「だから……だから、そんなこと言わないで……」
 行き場をなくしていたケインの手が、宙をさまようように揺れる。
 その手を取ってマリアの背中に回してくれたのは誰だったか。
「………僕は………」
 その後は言葉が続かなかった。いつの間にかケインの目からは涙が流れ落ちていた。嗚咽を漏らすその背中をマリアの手が優しく撫でる。
 言葉もなくただただ涙を流し続けるケイン。
 いつしか室内には誰もいなくなり、夕日に染まった空に星が瞬くまで、マリアはただ無言でケインを抱きしめてくれていた。
たたむ

mio
ケインの話6本目!
ここでしばらく休止…かと思ってたら、あと1本上げられる模様です。
また明日ー!

--Uが終わったそのあとで おまけ--
『君が笑ってくれるなら』(6)

「……ごめん、ケイン。囮を買って出たのは私なの。いつまでもベガの兵士がケインの周りにいるなんて我慢できなかったから」
 戻った記憶を整理できず半ば呆然としたままのケインに、研究所に帰る車内でマリアが説明してくれた。
 あの日大介が罠にかからなかったのも、マリアがグレンダイザーに乗っていたのも予知によるものだったこと。
 あの後ベガ軍は撤退していったけれど、その後、研究所を探っている不審な人物がたびたび目撃されたこと。それがケインと一緒にいた兵士だと大介が気づいたこと。
 あの日、罠にかかったふりをして工作部隊の兵士を倒し、降りしきる雪の中、グレンダイザーの近くまで戻ってきた大介は、グレンダイザーから攻撃されないだけの距離を取ってケインを見張っている兵士を目撃したらしい。ケインの自死を止めるのを優先したため、その時の兵士がどうしたかはわからないが、彼らがベガの命を受けて地球に残り、捕らわれたケインを抹殺しようとしていても不思議ではない。ケインはベガの情報を持っているのだから。
 しかし彼らは巧妙で、なかなか捕らえることが出来なかった。
 「暖かくなったらケインと一緒に外に出たいのに、襲われる心配しなきゃいけないなんて我慢できない」と言い出したのはマリアだった。
 ケインを囮にするのは申し訳ないと思いつつ、ヒカルに特殊な防護壁を張ってもらい、防護用の素材で作った衣類を着ぶくれに見えるほど着込んでもらった。もちろんマリアのコートの下も同様の素材で作った服だ。
 囮を言い出したのはマリアで、反対意見はあったものの、予知によって自分にもケインにも危険はないとマリア自身が強く主張したからこその決行だった。
 それでも、兵士の光線銃がケインの腕を掠めてしまい、今ケインの二の腕はマリアの手によって包帯を巻かれている。落ち込んでいるのか、マリアの表情はひどく暗い。
「ごめんね、ケインが怪我するなんて思わなかった…」
「あー、それは俺が悪いんだよ。あいつら見失ったから。ごめんな、ケイン。怖い思いさせた上に痛い思いまでさせて」
 運転席のミラーに映る甲児がそう言って頭を下げた。
「あいつらに気づかれたのは私たちのミスよ。本当にごめんなさい」
「マリアは悪くない」
 甲児、さやか、ヒカルが続けてそう言って、大介が手を伸ばしてマリアの頭を撫でた。
 マリアを包む暖かな空気はケインにも感じ取れた。マリアは愛されているんだなとケインは思った。あの王宮で、巫女姫としての能力しか見てくれない周囲の人間たちに癇癪を起していたマリアはここにはいない。遠い昔、自分の予知のせいで大事な友達をひどい目にあわせてしまったと泣くマリアを慰めたのは、肉親以外ではケインとシリウスの二人だけだった。でもここには大介…デューク以外にも、甲児、さやか、ヒカルがいる。宇門や研究所の人たちも。
 記憶を失っている間に見たマリアの笑顔。それはケインとシリウスにとっては見慣れた安心しきった笑顔だった。この人たちもまたマリアにとって信頼できる人たちなのだ。そんな人たちが今、以前とはまた違った意味で厳しい状況にいるマリアのそばにいてくれるのだ。
「包帯巻くの上手ね、マリアちゃん」
「わたしもそう思う。お姫様なのにいろいろできて偉いと思う」
 さやかとヒカルの二人がマリアを慰めようとしている気持ちが伝わってくる。そんな彼らがマリアを危険にさらすことを良しとするわけはない。
 ケインは素直に頭を下げた。
「……すみません。さっきは取り乱してしまって…」
 ケインが口を開いたとたん、その場が静かになった。助手席のさやか、後部座席の大介とヒカルの視線を感じる。顔を上げたケインは、ミラーの中の甲児と目が合った。
「じゃあ、思い出したんだな」
「はい。全部」
「体調が大丈夫なら、話してくれるかしら」
 さやかの問いかけに頷く。
「皆さんのおかげで体は回復しています。記憶も…、まだ少し混乱はしていますがお話できると思います。いいえ、僕の話を聞いてください。王子にもマリアにも皆さんにも聞いて欲しいです」
 笑みを見せる者、頷く者、ケインの肩を叩く者。
 それきり車内は静かになった。
『ああ、そうだった……』
 すべてを思い出したケインは心の中で呟いた。
 自分は利用されたのだ。利用しようとして潜り込んだはずのベガに。
 ぎゅっと手を握る。愚かだった自分を許せなかった。
 その手にマリアの暖かい手が重ねられても、ケインの固く握られた拳はずっとわずかに震えていた。
たたむ

駄文

mio
ケインの話5本目!

--Uが終わったそのあとで おまけ--
『君が笑ってくれるなら』(5)

 雪の降りしきる寒い日だった。
 あの日、ケインはグレンダイザーを奪うために地球に潜入した。ケインならグレンダイザーから拒否されないことを分かった上での人選だった。
 投入されたのは三つの部隊。マジンガーとスペイザーを引き付けておくための戦闘部隊。デュークをグレンダイザーから引き離すための工作部隊。そしてグレンダイザーを奪取するためのケイン達三つ目の部隊。
 作戦は順調に進んでいた。スペイザーが二機しか出てこなかったのは計算外だったが、マジンガーとスペイザーは足止めした。天候を利用した幻影を使ってデュークをグレンダイザーから引き離した。グレンダイザーから攻撃されない程度の距離に同行の兵士二人を残し、ケイン一人がグレンダイザーに近づいた。案の定、グレンダイザーはケインを攻撃しなかった。
 無人のグレンダイザーを奪うなどたやすいことのはずだった。任務は達成されるはずだった。
 生身のデューク=フリードを殺し、グレンダイザーさえ奪ってしまえば地球に用はない。いきがけの駄賃にマジンガーとスペイザーさえ破壊してしまえば地球にはもう抵抗する戦力はない。たやすくベガに屈するだろう。
 しかしそこにマリアがいた。グレンダイザーに搭乗していたのはデューク一人ではなかったのだ。
「どけ。グレンダイザーを降りろ」
 ケインの任務は「グレンダイザーを奪うこと」だ。グレンダイザーに搭乗できる以上、この少女もフリードの血を引く者だろうがそんなことは関係ない。任務の邪魔をする者は排除するだけだ。ケインは少女に対して何の感情もわかなかった。
「ケイン!」
 少女はケインの名を呼んだ。けれどケインの動きは止まらない。ホルスターから出した銃を少女に向ける。
「どうしたの、ケイン! 私のことがわからないの!? 私よ!マリアよ!!」
 指を引き金に掛けることに躊躇いはなかった。
「なんでなの、ケイン! 何があったの!?  答えてよ、ケイン!!」
 少女が振り絞るように叫んだ。彼女の傍らには銃があったが、それを手にする様子もない。ただ、悲痛な表情でケインを見つめているだけだ。
 少女の目から涙がこぼれる。
 それを見た時、ほんの一瞬だけ、ケインの頭の中に充満していた靄が消えうせた。それだけで十分だった。
 マリアに向けていた銃口を自分に向け直したケインは引き金を引こうとして…引けなかった。誰かの腕がケインを掴み、そしてケインの頭はまた靄に包まれてしまった。

たたむ

駄文

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