Diary

No.183

mio
ついでにケイン4話目も上げとこう。

--Uが終わったそのあとで おまけ--
『君が笑ってくれるなら』(4)

 そんなある日のことだった。
 ようやく体調が安定し、しっかりと歩くことが出来るようになったケインは、その日初めて、マリアと一緒に研究所の外に出ていた。
 風邪をひくといけないからとやたら防寒着を着せられた着ぶくれの状態のケインは、マリアに手を引かれて歩いていく。身震いするほど冷たい風が時折吹いてくるけれど、空は青く太陽の光は暖かい。思わず足を止めて太陽を振り仰ぐ。眩しい光に何かを思い出しそうになったが、マリアに話しかけられてそんな思考は霧散した。
「これからは時々散歩もしようね。その方が体にもいいから」
 そう言ってにこりと笑うマリアは、赤いハーフコートがよく似合っている。ミニスカートから伸びたすらりとした足を見て、ケインは何故かドキドキして目を逸らしてしまう。
 木々の間を縫うように続く小道には木漏れ日が陽の光を落としている。昨日のご飯がおいしかったとかあの本が面白かったとか他愛ない話をしながら小道を行くが、自分の隣を歩いているマリアが妙に緊張していることにケインは気がついていた。
 その理由がわかったのは、そろそろ帰ろうとマリアが口にしてすぐだった。研究所からはかなり離れた林の中、何かが頬を掠め髪が焦げる匂いがした。
 隣を歩いていたマリアが一瞬足を止めた。そしてケインを突き飛ばす。
「逃げて、ケイン!」
「マリア!」
 地面に伏せたまま顔だけを上げたケインは周囲に視線を送る。右手に一人、左手に一人、こちらを狙う銃口が光っている。
 守らなければ。
 そう思った。マリアを守らなければならない。
 近くに伏せていたマリアの手を引っ張って、抱えるようにして林の中に飛び込んだ。光る筋が視界の隅を通り過ぎる。
 自分の足はこんなに遅かったか。こんなに頼りなかったか。マリアを守る盾になろうと思っていたはずだったのに。
 腕のどこかが熱いがそんなことを気にしてはいられなかった。
 まだ枯れずに残っていた背丈ほどの草の群れの中に分け入り身を隠した。ふいに吹き付けた強風で、生い茂った草がガサガサと音をたてて揺れる。マリアを抱きしめ、息を殺して小さくなる。小枝を踏む足音が遠ざかっていく。ここにいればしばらく時間が稼げるだろう。自分が囮になってマリアを逃がさなくては。
 そう思って立ち上がろうとしたときだった。
「ケイン!大丈夫!?」
 青い顔のマリアがケインの上着をぎゅっと握って身を寄せてきた。少し離れてくれないとせっかくの可愛いコートが血で汚れてしまうのに。
「今から僕が出ていくから、マリアはその間に助けを呼んできて」
「何言ってるのよ! ケインはまだ病み上がりで……」
「駄目だよ。知ってるだろ? マリアを守るのが僕の役目なんだって」
「………ケイン……?」
 マリアが大きく目を見開いたとき、すぐ近くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ごめん!遅くなった!」
「あいつらは捕まえたから出てきて大丈夫よ!」
「…甲児さん、さやかさん………?」
 それはいつもケインを気遣ってくれる、気のいい二人の声だった。全身の力が抜けるような気がする。
「甲児!さやか!ここよ!」
 ケインを制してマリアが立ち上がって手を振る。
「二人とも無事か!?」
 草をかき分けて二人分の足音が近づいてくる。
「ごめんね。ずっと奴らを見張ってたのに、肝心な時に見失っちゃって!」
「あいつら意外に勘が良かったんだよ。尾行に気がついたみたいで…」
 どうやら自分たちは狙われていて、それを承知の上で動かされていたらしい。
 そのことに気づき、一瞬で頭に血が上って立ち上がった。
「……なんてことをするんだっ!! マリアを……フリードの姫を囮に使うなんてっっ!!」
 マリアは誰よりも守らなければならない人だ。なのにマリアを囮にするなんて。
 ケインは激怒しているのに、三人は何故かぽかんとした間の抜けた表情でケインを見ている。
「……ケイン……お前……」
 甲児が呟くように言う。さやかはぐるりと首を巡らせてケインからマリアに視線を移す。
 そしてマリアは……。
「……ケイン……思い出したの?」
 見上げるマリアの青い目を見た途端、ケインは自分が全て思い出していることに気づいた。三人が同時に息をのんだのがわかる。
「僕は……」
 ケインは自分の手をじっと見下ろした。
たたむ

駄文

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